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春季大会SIG-TLセッション「授業改善プロジェクトの概要と効果」(開催報告)
SIG-TLでは,2024年度のテーマを「個別最適な学びと授業研究/校内研修」と設定し,これまで2回の研究会を開催してきました。2024年度の活動の締めくくりとなる,春季全国大会SIGセッション(2025年3月9日,成城大学)では,話題提供者に熊本大学の前田康裕先生をお迎えし,「授業改善プロジェクトの概要と効果」について紹介していただきました。セッションには,現職教員,学生,大学教員など,約60名の参加がありました。
「授業改善プロジェクト」とは,前田先生が取り組まれている校内研修モデルの総称であり,学校の研究テーマに合わせて,1人1人の教師が個別最適な課題を立てて,1年間をかけて協働して課題解決を行うプロジェクト型の校内研修のことです(詳しくは,前田・前田(2024)参照のこと)。
具体的には,①1人1人の教師が自分の授業の問題を発見し,課題を設定し,②日常の授業を改善するために,研究授業において問題解決のための「見通し(Anticipation)」を持ち,その見通しをもとに,日常の授業において「行動(Action)」し,その行動を「振り返り(Reflection)」さらに見通しを修正し,行動し,振り返るという活動を次の校内研修まで繰り返します。そして,③1人1人の教師が自分自身の課題への取り組みを同じ課題・教科等のグループメンバーと共有し,他のメンバーからフィードバックをもらい,1年間の取り組みについて振り返りを行うという校内研修になります。これらの活動を実施するために,授業改善プロジェクトでは4つの校内研修が用意されています。このプロジェクトのゴールと流れを理解する「キックオフ研修」,それぞれの教師が自分の授業の問題を発見し課題を設定し,課題解決の見通しを持つための「フォローアップ研修1」,研究授業を通して概念化を図り,自分の授業課題の改善点を見出す「フォローアップ研修2」,そして授業改善プロジェクトの1年間を締めくくる教師1人1人の課題への取組報告とフィードバックをもらう「フォローアップ研修3」です。
今回のSIGセッションでは,授業改善プロジェクトの1年間の研修の流れを,実際の研修の様子を動画で見せていただきながら,紹介していただきました。また,説明だけでは分かりづらいキックオフ研修やフォローアップ研修のグループ対話を,実際にセッション参加者の皆さんにも体験してもらい,それぞれの研修で行われる対話の意義,その対話を前田先生がどのような視点でどのように支援しているか等を解説していただきました。特に,フォローアップ研修2の概念化ワークショップは,小学6年社会科の授業を3分間にまとめた動画を全員で視聴し,その後グループで授業のポイントを一言でまとめる概念化を行い,その結果をパドレットに書き込み,各グループの対話の結果を全体で共有しました。このワークショップを通して,研究授業における参加者の学びを誘発させる一つの手法として概念化を行うことの有用性を参加者それぞれが実感できたように思います。
本セッションの最後に,前田先生から「本日のSIG-TLセッションでは何を学びましたか」という問いが出され,グループ対話が行われました。全体交流では「中学校における校内研修の難しさを整理してもらった」,「学びと研修の相似形で先生の心の持ちようが変わる」といった意見が出されました。これでセッションが終わるのかと思いきや,前田先生から最後のミッションとして「お互いから学んだことを言い合いましょう」が出されました。このミッションの効果はSIGセッション後に現れました。グループメンバーで名刺を交換したり,談笑し続けたりするグループが多くみられ,セッションの余韻が次のセッションが始まるまで会場内に残っていました。
本セッションのまとめで前田先生が「認めあうことが学習集団を形成するキモ」と言われましたが,セッション後の参加者の皆さんの様子に,その一端を垣間見たように思いました。
参考文献 ・前田康裕・前田菜摘(2024)教師が探究的に学ぶための校内研修プログラムの実践と評価.日本教育工学会論文誌 48(Suppl.):237-240
文責 今井亜湖(岐阜大学)



