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SIG-TL 第4回研究会「『令和の日本型学校教育』の構築に対する教育工学への期待と課題」開催報告
日 時:2023年11月3日(祝)10~12時
参加者:対面参加:6名 オンライン参加:18名
場 所:大阪コロナホテル別館1階・100B会議室、およびオンライン(Zoom)
講 師:小柳和喜雄先生(関西大学教授・奈良教育大学名誉教授・日本教育工学会副会長)
第4回研究会は,「Technological Pedagogical Content Knowledge(TPACK)」の動向を踏まえつつ日本のICTを活用した教育のあり方の研究をなさってきた本学会の副会長の小柳先生(関西大学)を講師にお迎えし,「『令和の日本型学校教育』の構築に対する教育工学への期待と課題」というタイトルでご講演いただき,その後,参加者同士で感じたことを共有し,対話を深めました.
ご講演では,TPACK に関する研究, SAMR に関する研究などを運用評価し,研究を進めてきた International Society for Technology in Education (ISTE)に所属する代表的な研究チームへのインタビューの結果と,それに対する小柳先生のご見解をお話しいただきました.
Borthwick, Foulger, & Grazianoらの研究では,「教員養成におけるTechnology Integration」ではなく,「Technology Infusion」という言葉を用いて教員養成のカリキュラムを議論していますが,これは,教員養成においてすべての教師教育者で技術指導の責任を担うことによってTechnologyがカリキュラム全体にIntegrationされ,養成プログラムにInfusionされる(「見方・考え方」が浸透する)ことを目指しているためであり,「情報通信技術を活用した教育の理論及び方法」について1単位以上の修得が必要となった我が国の教員養成のカリキュラム編成の方向性(一部の指導者が技術指導の大部分を担う)とは異なっています.
参加者の対話では,教育実習でのICT活用の実態や,教育現場でのICT活用に関わる現職教員の実感,Borthwick, Foulger, & Grazianoらが提示したフレームワークの解釈に至るまで,多岐にわたった意見共有や情報交換がなされました.
日本は自治体によって温度差が大きく,それらは教育実習の内容にも影響している,という参加者からの声に対して,小柳先生からは,それはアメリカでも同様であり,Infusionのあり方も地域や学校によって多様である,というコメントをいただきました.
また,Technology Infusion 遂行に向けた4つの柱のうち「Technology Self-Efficacy」に関する解釈も話題となりました. これは,ICTを活用した授業実践の手応えと自信を獲得することを意味しますが,具体的には,目標とするカリスマ教員が採用した方法を吟味せずに模倣することには留まらず,地域や学校や子どもの実態に即した形で開発できるようになることではないかという指摘や,日本は教育が近代化するまでは「手習い」(見て学ぶ)が基本であったので,こうした民族性に合わせた学び方が自然なのだとする指摘もありました.
「令和の日本型学校教育」では「個別最適な学び」がキーワードになっていますが,これは教員の学びにおいても同様であり,一律にInfusionのレベルに発展することは大変困難であるため,教員や教職志望者のICTを活用した授業設計に関わる技術についても「個別最適な学び」によって高められる必要性があるのではないか,という見解が,本研究会の最後に整理されました.
ご講演いただいた小柳先生および祝日での開催にも関わらずご参加いただきました皆さまに感謝申し上げます.
文責:古田紫帆(大手前大学)