日本教育工学会2024年秋季全国大会(第45回)の報告

日本教育工学会 2024 年秋季全国大会(第 45 回)の報告
大会企画委員会副委員長 根本淳子(明治学院大学)

日本教育工学会 2024 年秋季全国大会(第 45回)は,2024 年 9 月7 日(土)から8日(日)の2日間にわたり,東北学院大学 五橋キャンパス(仙台) にて開催されました.今回も多くの方に参加いただき感謝申し上げます.

本大会の運営をお引き受けくださった東北学院大学の稲垣忠大会実行委員長,宮城教育大学の岡本恭介大会実行副委員長をはじめ,大会実行委員会の先生方の多大なるご協力を賜り,無事に会期を終えることができました.あらためて厚く御礼を申し上げます.会期中は天候にも恵まれ,多くの方に参加していただくことができました。

例年通り,秋大会では一般発表をはじめ,チュートリアルセッション,企画セッション,シンポジウムを実施いたしました.シンポジウムは学会の40周年を記念した内容で実施しました.一般発表は,今回もオンラインと対面両方で研究発表を実施しました.オンラインは前回とは異なるスタイルで実施し,また,懇親会はウェルカムレセプションとしてアルコールなしの交流を中心とした会が開かれました.今後も,多くの会員にとってより良い交流かつ研究発表の場となりますように進めていきたいと思います.

次回春季全国大会は,2025年3月8日(土)- 9日(日)に成城大学(東京)で,秋季全国大会は2025年9月27日 – 28日にウインクあいち(名古屋)にて開催されます.大会企画委員会では,参加者の皆様の研究・実践の発表の場となると同時に,会員の皆様の交流を深める場にもなることを目指し,よりよい大会運営を目指して参ります.是非,引き続きご参加くださいますよう,よろしくお願いいたします.

日本教育工学会 2024 年秋季全国大会(第 45 回)の報告
     大会実行委員会委員長 稲垣忠(東北学院学院大学)

 日本教育工学会2024年秋季全国大会が,2024年9月6日(土)・7日(日)に東北学院大学五橋キャンパスで開催されました.887名(うちオンライン55名)の皆さまのご参加をいただきました.大会では,一般研究発表として364件のポスター発表がありました.4教室5セッションを確保して実施しましたが,どの会場も熱気あふれる議論が展開されました.発表者および討議に参加いただいた皆様に感謝申し上げます.なお,タイミングによっては会場が混み合いすぎてしまい,ご迷惑おかけしたところもあったかと思います.また,本大会ではオンライン発表についてはオンデマンドでの開催とし,34件の発表がありました.大会期間後も公開期間を確保し,議論の場を設けました.

企画セッションとして,大会のオープニングとなったチュートリアルセッション1では,急遽,サテライト会場を設ける程の賑わいで大会初参加の皆さんをお迎えすることができました.2日目のチュートリアル2,3は押川記念ホールにて,教育システム論文,査読について対談形式での解説がありました.また,本学会の重点活動領域である情報教育,学習環境,学習評価,先端技術とELSIの4つの部会のセッションにおいても,多くの参加者で賑わい,それぞれの最新の話題についてじっくり議論することができました.また,本大会では12社の企業から13ブースの出展を頂き,企業展示に加え,企業セッション,企業ランチセッションを開催いただき,いずれも盛況でした.  

懇親会に替わる新たな試みとして,ウェルカムレセプションを1日目夕方に開催しました.軽食とノンアルコールドリンクの提供となりましたが,初参加の方も多く,学生80名,一般208名の288名の参加がありました.学会にまつわるクイズや本学会で長く活躍されている先生方からのスピーチもあり,さまざまな年代の学会員が交流する場となりました.  

2日間の締めくくりとして,日本教育工学会40周年記念シンポジウム「教育工学研究の発展に学会は何ができるか」が開催されました.教育工学会からは重点活動領域・SIGの取り組みについて,そして教育工学研究と関わりの深い日本科学教育学会,教育システム情報学会から話題提供をいただき,今後の学会の在り方について議論を深めることができました.老若問わず,会員が増え続けている本学会らしい,希望の持てるシンポジウムで締めていただいたこと,感謝申し上げます.  仙台での日本教育工学会の全国大会は,年1回3日間の開催の最後の年となった2018年以来のことでした.年2回それぞれ2日間の開催は6年目となり,参加者としては慣れてきた気持ちもありましたが,大会を開催する側として2日間をどう運営するか,3日間の頃とはまた違う,さまざまな試行錯誤がありました.凝縮された日程の中で,たくさんの議論が交わされ,新たなつながりが生まれたのは,ひとえに参加された皆さんの主体的なコミットメントのおかげです.心より感謝申し上げます.  

最後になりましたが,本大会の運営にあたり,大会企画委員会,学会役員,学会事務局の皆さまをはじめとして,多くの皆さまのご協力,ご支援をいただきました.大会実行委員会を代表して,御礼申し上げます.次回の全国大会では一参加者として,皆さまと再びお目にかかれますことを楽しみにしております.ありがとうございました.

シンポジウム

 大会2日目午後に日本教育工学会40周年記念シンポジウムが開催されました.
本シンポジウムは大会企画委員会が企画し,「教育工学研究の発展に学会は何ができるか」をテーマに,教育工学研究との関わりの深い関連学会として,日本科学教育学会の取り組みを神戸大学の山口悦司氏に,教育システム情報学会の取り組みを東京都立大学の近藤伸彦氏に紹介いただくとともに,本学会の教育工学研究の発展に関わる取り組みとして,重点活動領域とSIG活動について,それぞれの所轄委員会委員長の益川弘如氏,重田勝介氏からその取り組みについて説明していただきました.

山口氏からは日本科学教育学会の論文誌『科学教育研究』の編集等に関わってきた経験をもとに,JSETにはない,論文誌における2つの取り組みを紹介いただきました.1つは,投稿種別の1つである「プラザ」,もう1つは「若手特集」です.「プラザ」は,科学教育研究のアイデンティティを共同構築する取り組みとして,「若手特集」は学会内の多様な専門分野の若手会員を媒介する「バウンダリー・オブジェクト」としての機能を果たす取り組みとして紹介され,これらは学際的な学会における会員間の協調を促進する「交易圏」を形成する取り組みになっていると説明いただきました.

近藤氏からは教育システム情報学会の50周年記念事業の1つである「教育システム情報学マップ」を紹介いただきました.これは学会に関わる研究分野で扱われうる「問い」を共有し,体系化しようというビジョンのもとで行なわれた取り組みの1つです.若手研究者を中心とする「教育システム情報学マップ作成WG(ワーキンググループ)」の活動のあゆみと,その中でも,特に近藤氏が関わっている「JSiSE研究の5W1Hマップ」の事例を中心に報告がなされました.このマップ作成は現在進行中の取り組みではありますが,「研究活動の活性化に資する『問い』に基づく対話を生むための触媒」となりえるものと紹介されました.

益川氏からは,まず重点活動領域委員会の目的が,JSET将来構想の実現に向けて,学会として重点的に取り組んでいる領域を社会に示し,社会貢献につなげることであることが示されました.2021年に情報教育部会,学習環境部会,学習評価部会,2023年には先端科学技術とELSI部会が組織され,全国大会等で定期的に活動報告が行われ,学会員の交流,参加を促していることが紹介されました.重点活動領域が,学会員同士の研究プロセスの共有の場となることが,学会の成長の鍵になるのではないかとの考えが示され,多様な視点を持ち寄る創発の場として機能させていきたいとの抱負が述べられました.

重田氏からは, 現在のSIG(Special Interest Group)は,会員が提案し,理事会が承認したSIGが学会の支援を得ながら,テーマに関する研究会やセミナー等を行なうものであること,2024年からの第4期は5つのSIGが活動していることが紹介されました.そのうえで,SIGは研究コミュニティを創出する優れたシステムとなっていると評価できる一方,設立時のSIG間のテーマの重複調整や,大規模な活動への支援の不足などが課題であると述べられました.また,研究者が学会に参加するインセンティブを再考する時期に来ている現在,学会が特定の領域の研究を促進する意味について考えていかなければならないのではないかという問題提起がなされました.

それぞれの話題提供の後には,指定討論者である東京大学の山内祐平氏によるコメントが行われました.また,全ての話題提供が終わった後,山内氏から,学術知の現場への普及や研究者の成長の支援といった観点からの共通質問が示され,研究発展に寄与する学会の取り組みについて活発な議論が行われました.最後に,堀田会長が本シンポジウムの総括とこれからの学会の役割について話され,2時間にわたる40周年記念シンポジウムは終了しました.
お忙しい中,本シンポジウムにご登壇くださいました皆様に対し,この場を借りて御礼申し上げます.

文責 今井亜湖(岐阜大学)

チュートリアルセッション

 24年度秋季全国大会のチュートリアルセッションは,東北学院大学五橋キャンパスにて実施いたしました.

セッション1は「日本教育工学会へようこそ!学会と全国大会の見どころを紹介します!」と題して開催し,約200名にご参加いただきました.はじめに,会長の堀田龍也先生(東京学芸大学)から本学会の概要と研究活動の場,全国大会の楽しみ方などについて説明いたしました.次に,副会長の西森年寿先生(大阪大学)より会員サービスや本大会のプログラム,見どころについて紹介いたしました.

セッション2は「教育システム論文をどのように記述していくか」と題して開催いたしました.編集委員会担当理事の大浦弘樹先生(東京理科大学)司会のもと,はじめに,編集委員長の小柳和喜雄先生(関西大学)から本セッションの趣旨を説明いたしました.続いて,江木啓訓先生(電気通信大学),金西計英先生(徳島大学)より,「教育システム開発論文」の記述に求められるポイントについて解説していただき,システム開発によるアプローチの可能性などについて対談形式にて議論が繰り広げられました.

セッション3は「査読を通っていく投稿論文はどのように記述されている論文か」をテーマとして開催いたしました.編集委員会編集長補佐の今井亜湖先生(岐阜大学)司会のもと,はじめに,編集委員長の小柳和喜雄先生(関西大学)から本セッションの趣旨を説明いたしました.続いて,副編集長の田口真奈先生(京都大学),編集委員会担当理事の望月俊男先生(早稲田大学)を交えて,投稿論文の査読を通していくために必要なエッセンスや留意点,倫理的配慮など,活発な議論がなされました.

セッション2とセッション3には,約210名にご参加いただき,多くの学会員に向けて本学会の活動,ならびに論文投稿に役立つ情報を提供する機会になりました.

文責:杉浦真由美(北海道大学)・坂井裕紀(東京大学)

企画セッション

企画セッションでは,重点活動領域の4部会とラインズ株式会社様の企業による企画が,9月7日(土)と8日(日)に実施されました.

重点活動領域の企画について,情報教育部会は「児童・生徒の情報活用能力の評価を目指した尺度開発に向けた尺度項目の検討」,学習評価部会は「自律的な学習者を育成する学習評価とその土台となる教師の『わざ』」,学習環境部会は「学習環境デザインプロセスにおける教育者の行為の探究」,先端科学技術とELSI部会は「責任ある教育実践・教育研究とは:ELSI/RRI の観点から」,のテーマを掲げ,各領域における課題に関連した講演やワークが展開されました.

企業による企画は,ラインズ株式会社による「eラーニングを利用した入学前教育とその結果の活用」というタイトルで実施された.当セッションでは,入学前のリメディアル教育におけるeラーニングの活用事例について清泉女子大学の有田氏から,その効果や入学後の活用についても紹介されました.

本大会における企画セッションは,一般研究発表と異なる時間帯で実施されたこともあり,すべてのセッションで多くの方にご参加いただき,活発な議論の場となりました.

文責:山本良太(大阪教育大学)・宇多清二(内田洋行)

一般的発表

一般発表では,合計 391件の発表を対面発表(ポスター形式)とオンライン発表(ビデオオンデマンド形式)の2種類の形式で実施しました.

対面発表は,東北学院大学五橋キャンパスにおいて合計 359 件のポスター発表を2日間にわたって開催しました.今大会では,発表会場を4部屋準備し,1つの部屋の発表数を20件未満に抑え,壁側だけにパネルを設置するレイアウトを採用するなど,できるだけ多くの参観者が入れるよう工夫をした上で開催いたしました.昨年に引き続き,活気のあるポスター発表が行われました.プログラムの時間帯によってはポスター発表の入れ替えが20分しかないこともありましたが,発表者および参加者のご協力によって,スムーズに運営を行うことができました.

オンライン発表は,合計32件の発表がありました.昨年はoViceというツールを活用した同時双方向形式で実施しましたが,今年はビデオオンデマンド形式で開催いたしました.今回のオンライン発表では,動画の作成やディスカッションができるサービスの準備を必須とするなど,発表者に対していくつかの事前準備をお願いしましたが,昨年より発表件数は増加し,学会に対面参加が叶わない発表者にとって貴重な発表の機会となりました.ディスカッションの場では,googleのクラウドサービスをはじめ,slido, miroなどが用いられたオンラインでのやり取りが行われました.

発表者・参加者のみなさまのご協力のおかげで,両発表とも円滑に行うことが出来ました.改めて御礼申し上げます.

文責 倉田伸(長崎大学)