日本教育工学会2024年春季全国大会(第44回)の報告

日本教育工学会 2024 年春季全国大会(第 44 回)の報告
     大会企画委員会副委員長 瀬戸崎典夫(長崎大学)

 日本教育工学会2024年春季全国大会(第 44 回)は,2024 年 3 月 2日(土)〜3 日(日)の2日間にわたり,熊本大学黒髪キャンパスで開催されました.

 本大会の運営をお引き受けくださった熊本学の戸田真志大会実行委員長,喜多敏博大会実行副委員長をはじめ,大会実行委員会の先生方の多大なるご協力を賜り,無事に会期を終えることができました.この紙面をお借りして,あらためて厚く御礼を申し上げます.

 春期全国大会は口頭発表を主な発表形態としており,International Sessionと学生セッションを含む343件の発表が行われました.それに加えて,チュートリアルセッション,3件の自主企画セッション,「情報教育部会」,「学習環境部会」,「学習評価部会」,「先端科学技術とELSI部会」の4つの部会による重点活動領域セッション,企業企画セッション,SIGセッション及びシンポジウムが行われました.2日間で735名の方にご参加頂き,YouTube Liveで一般公開されたシンポジウムは,会場での参加者と合わせると、合計200名近くの参加者となりました.

 また,昨年度の大会から,学生による優れた研究とその成果の発表を奨励することを目的として,「学生セッション優秀発表賞」が設定され,7名の学生セッションでの発表者に対して,大会企画委員会から賞が授与されました.受賞された皆様,おめでとうございます.

改めまして,ご発表いただいた会員の皆様,協賛くださった,企業の皆様に感謝の意を表したく存じます.

 本大会後に行ったアンケートでは,8割以上の方々から,非常に満足もしくはやや満足との回答を頂いております.アンケートに寄せられたご意見につきましては,大会企画委員会内で検討し,次回以降の大会の改善につなげる所存です.

 次回2024年秋季全国大会は2024年9月7日(土)〜8日(日)に東北学院大学 五橋キャンパス(仙台)で,2025年春季全国大会は2025年3月8日(土)〜9日(日)に成城大学(東京)で開催されます.大会企画委員会では,参加者の皆様の研究・実践の発表の場となると同時に,会員の皆様の交流を深める場にもなることを目指し,よりよい大会運営を目指して参ります.是非,引き続きご参加くださいますよう,よろしくお願いいたします.

日本教育工学会 2023年春季全国大会(第44回)の御礼
   大会実行委員会委員長 戸田真志(熊本大学)

 日本教育工学会2024年春季全国大会が,2024年3月2日(土)から3日(日)に熊本大学で開催されました.幸い2日間,天候にも恵まれ,735名の皆さまにご参加頂きました.

 大会では一般研究発表セッションの他,重点活動領域セッション,SIGセッション,チュートリアル,シンポジウム等,多彩なプログラムが展開されました.一般研究発表セッションは,対面のみならず,一部をオンラインセッションとして実施致しました.
研究発表件数は343件となりました.最新の研究成果や現場の実践経験を皆さまで共有し,意見を交換する場として,活気に満ちたものであったことを大変嬉しく思っております.

 シンポジウムは,「NEXT GIGA に向けた教育工学への期待 −熊本県における実践から広がる展望−」と題して,開催地である熊本市・熊本県の実践に関する話題をご披露頂きつつ,NEXT GIGA に向けた課題点を討議頂きました.
このシンポジウムは,対面での参加に加え,YouTube Liveでも配信され,会場にお越し頂けなかった会員の皆様だけでなく,非会員の皆様にもご視聴いただくことができ,多くの皆さまが本大会,本学会の魅力を知るきっかけとなったのではと思います.

 1日目の夜には,春季大会としては初めての懇親会が開催されました.「会話こそが最大の余興」との考えにて,特別なイベント等は盛り込みませんでしたが,250名に迫る参加者の皆さまが,一同に介して飲食を共にすることで、会場内の随所でさまざまな交流が為されており,大いに盛り上がっていたのではないかと思います.

 熊本城に一番近いホテルでの懇親会,熊本県営業部長兼しあわせ部長のくまモンの出動(くまモンショー),熊大生協食堂にて郷土料理のご提供など、開催地の郷土色も散りばめてみたつもりです.お楽しみ頂けたようでしたら何よりです.

 多くの皆さまにご参加いただき,日頃の研究成果を惜しげもなくご披露頂き,さらに活発にご議論頂きましたこと,心より感謝申し上げます..
ご参加の皆さまが,充実した2日間をお過ごし頂けたようでしたら,これ以上の喜びはありません.

 最後になりましたが,本大会を無事終了することができましたのは,大会企画委員会,大会実行委員会,学会役員の皆さまをはじめとして,多くの皆さまのご協力,ご支援の賜物かと存じます.心より御礼申し上げます.次回の大会でも,皆さまと再びお目にかかれますことを楽しみにしております.

チュートリアルセッション

 チュートリアルセッションは,「Let’s Talk〜あつまれJSETの森〜」と題し,3月2日(土)8:45〜9:15の時間帯で開催された.

 今大会の本セッションのテーマは「つながろう!」であった.初めてのJSET参加で心細い参加者,学会での知り合いをもっと増やしたい参加者に向けて,知り合いづくりのきっかけを提供することを目的とした.

 セッション冒頭では,西森年寿学会副会長(会員サービス担当;大阪大学)から本学会の概要,諸活動,および春季全国大会の概要について説明があった.また,会員は「一つ穴の狸」(熊本船場山の狸から),学会員は関係ないようでいて良い教育実践を志す同じ仲間であることが強調された.その後,本セッションの趣旨は「様々な所属の研究者や学生が,気軽なトークでつながるきっかけを作ること」であると説明され,グループワークとなった.
 会場の参加者は,3〜4人程度のグループとなった.コーディネーターからは,できるだけ知り合いではない人,お知り合いになりたい人の近くに座るよう案内された.トークのテーマは「この2日間,熊本でやりたいことは?」であった.約10分間で各グループは,行きたいセッションや食べたい熊本グルメなど,様々な話題で盛り上がっていた.多くのグループで名刺交換がされるなど,今後に続く交流が行われていた.
 グループワーク後には西森学会副会長から,今後の会員同士のつながりのきっかけになれば嬉しいということ,引き続き交流ができる「会員控室」があるのでぜひ活用してほしいことがまとめとして話された.

 朝早い時間帯にもかかわらず100人以上の参加があった.このことから,会員の間で知り合いづくりのきっかけや会員同士の対話が求められていることが察せられた.

(文責:石川奈保子・古賀竣也)

重点活動領域セッション

 重点活動領域セッションは,3月2日(土)9:20〜17:20の時間帯で開催された.第2期の活動に入った「情報教育部会」「学習環境部会」「学習評価部会」、そして新たに設置された「先端科学技術とELSI部会」の計4部会がそれぞれセッションを企画し、活動報告やワークショップ等が行われた。

 「情報教育部会」の第2期では、児童生徒の情報活用能力を評価するための「情報活用能力尺度の開発」を目標に研究を進めている。その研究の中途報告と、いかなる情報活用能力尺度が開発できると良さそうかについてグループに分かれて議論が行われた。「学習環境部会」では、学習活動の4側面(空間、人工物、活動、共同体)を関連された学習環境のデザインプロセスの共通点や留意点を探索的に明らかにすることを目標に活動を進めている。そこで実践研究を行っている論文著者らを招き、ダイアローグセッションを通して、学習環境の各側面やつながりをどのようにデザインしたのか」を明らかにしていった。「学習評価部会」の第2期では、「学習者中心の評価」を主要なテーマとして位置付け、活動を進めている。学習者中心の評価研究の動向について概観した上で、指定討論者と対話を通して、新たな学習環境における評価やフィードバックの姿について議論が深められた。「先端科学技術とELSI部会」では、2023年度の活動報告を行ったほか、ChatGPTを用いた大学授業の紹介と、その授業実際に参加者が模擬体験した。その上で生成AIの教育利用の課題等について意見交流を行った。

 いずれの部会においても、参加者が積極的にワークに参加し、情報交換を行うことができた。今回の重点活動領域セッションを通して、各部会の今後の活動がより発展していくことが期待できる。

(文責:益川弘如)

学生セッション 

 今春大会でも,教育工学に関わる若手育成,若手研究の奨励を目的として,学生セッションが実施された.19セッション(計64件)での発表が行われ,盛況となった.第42回春大会から実施されている,特に優れた発表に対する学生セッション優秀発表賞の授与について,今回は以下の7つの研究発表が選ばれた.

・「研究倫理教育に資するゲーム学習プログラム”GAME QRP“の開発」
大空理人,藤本徹(東京大学大学院)

・「情報端末を活用した授業において自律性支援を志向する教師の教授行動の事例分析」
若月陸央(信州大学大学院),齊藤陽花,佐藤和紀(信州大学)

・「高等学校数学科における生産的失敗の効果と学習者特性」
樋口翔太,渡辺雄貴 (東京理科大学大学院)

・「演習授業におけるTAの巡回位置が学生の挙手に与える影響の分析」
吉野貴浩,室林奏人,江木啓訓(電気通信大学)

・「中学数学におけるコストと達成目標の関連」
真鍋一生,中谷素之(名古屋大学)

・「生成AIを利用した多言語コミュニケーションを支援する対話型AIアプリの開発」
上原拓也,北村史,瀬戸崎典夫(長崎大学)

・「ARを用いた細胞培養学習支援システムにおける熟達者の手指モデルの開発と表示内容の評価」
長田慧(東京理科大学大学院), 櫻井信豪,赤倉貴子(東京理科大学)

座長をご担当頂いた先生方,発表を聞きに来てくださったみなさまのご協力のもと,どのセッションも活発な意見交換が行われ,有意義な研究発表・交流の時間となっていた.

(文責:江草遼平)

SIGセッション

 SIGセッションは3月3日(日)14:10〜14:30に開催された.SIGセッションでは,まず,重田勝介SIG委員会委員長(北海道大学)より,特定のテーマに興味・関心を持つ会員がグループを形成し,研究会やセミナー等年間を通して活動を行い,学会員のコミュニティ形成を図る場としてのSIG(Special Interest Group)の位置づけが説明され,2024年2月にSIGがリニューアルしたこと,会員専用ページからSIGに参加する方法について説明がなされた.

 続いて,5つのSIGの関係者より,各SIGの紹介が行われた.「SIG-TL 教師教育・実践研究」については,代表の島田希氏(大阪公立大学)より,SIG設立の趣旨,今後の研究会・ワークショップなどの計画等が紹介された.「SIG-ID インストラクショナルデザイン」については,副代表の甲斐晶子氏(青山学院大学)より,インストラクショナルデザインの概要,SIGの目的,2023年度に実施した定例ゼミ,2024年の活動予定が紹介された.「SIG-CL 協調学習・学習科学」については,副代表の大浦弘樹氏(東京理科大学)より,SIGの目的,CSCLの現状,2023年度に実施した体験型ワークショップ,過去の活動や出版物,今後の研究会の予定等が紹介された.「SIG-SE 特別支援教育」については,代表の水内豊和氏(島根県立大学)と副代表の山崎智仁氏(旭川市立大学)より,SIG設立の趣旨,今後の活動予定等が紹介された.「SIG-MC マイクロクレデンシャル」については,代表の重田勝介氏(北海道大学)より,SIG設立の趣旨,今後の活動予定等が紹介され,SIGセッションは終了した.


(SIG委員会委員長 重田勝介)

シンポジウム

 大会2日目の最後のプログラムとして,「NEXT GIGAに向けた教育工学への期待 −熊本県における実践から広がる展望−」をテーマとしたシンポジウムが開催された.稲垣忠氏(東北学院大学)をコーディネーターとして,行政・研究者・実践者など多様な立場からこれまでの取り組みの話題提供と,これからの時代において期待される教育工学研究の役割についてディスカッションが行われた.

 話題提供では,まず塩津昭弘氏(熊本大学),吉田潔氏(熊本市教育センター)から,行政の立場で「ウェルビーイングに向けた熊本市の教育DX ビジョン」というタイトルで,熊本市の教育ビジョンとその実現のためのICT活用に向けた教員研修の実例と課題が示された.続いて,工藤照彦氏(熊本市立北部中学校),光安朝規氏(熊本市立北部中学校) から,熊本市の教育実践者の立場で「LDXにおけるAI活用の取組」というタイトルで,生成AIを利用した教育実践の試みとその効果について事例紹介がなされた.さらに,熊本県内の教育実践者の立場で福島健太氏(高森町立高森中央小学校)から, 「自立した学習者の育成〜児童を学びの主体に据えた授業デザインの構築」というタイトルで一人一台端末を活用した子どもの学びの家庭と学校での変化について報告がなされた.また,前田康裕氏(熊本大学) からは,研究者の立場で「GIGA スクール構想の課題と教員研修の改革」というタイトルで,教員一人ひとりの授業力向上を目的とした新たな授業研究会と研修の取り組みが報告された.
 指定討論では,堀田龍也氏(東北大学/東京学芸大学)から,熊本市・熊本県のICT活用状況の概要と本学会におけるGIGAスクール構想に関連する研究論文の紹介がなされた.続いて,話題提供者に対して「1.情報端末活用推進にあたり,どんな取組が効いていたのか?またそれはなぜか?」「2.授業観・学習観の変容に対して,どんな取組が効いていたのか?またそれはなぜか?」という問いが投げ掛けられ,話題提供者からは,行政の支援や予算立ての重要性,見通しを持って「やってみる」ことの重要性についての話がなされた.さらに,コーディネーターに対して「教師や学校の取り組みを調査・検証・介入・モデル化する/学術研究の成果が政策に引用されるための教育工学研究はどこに重点を置くべきと考えられるか?」という問いが投げ掛けられ,子どもたち一人ひとりの多様な学びかたを捉える授業研究や,子どもたち自身が自らの学びを語ることのできるような評価の枠組みの検討に,学術研究として取り組むことの重要性が述べられた.
 質疑応答では,参加者からの質問に答えるかたちで,学級文化の醸成や生成AIとの付き合いかたについての子どもの学びのプロセス,カリキュラムマネジメントに関する意見交換がなされた.また,テクノロジーだけでなく教師教育や授業研究を扱う,包括的な学会としての日本教育工学会への期待と役割について議論がなされた.

 本シンポジウムは,全国大会参加者に向けて本会場並びにサテライト会場で進行したほか,YouTube Liveでも一般公開され,合計で200名を超える参加があった.

(文責:大崎理乃,瀬戸崎典夫)