日本教育工学会2023年秋季全国大会(第43回)の報告

日本教育工学会 2023 年春季全国大会(第 43 回)の報告
     大会企画委員会副委員長 根本淳子(明治学院大学)

日本教育工学会 2023 年秋季全国大会(第 43回)は,2023 年 9 月 15日(土)から16日(日)の2日間にわたり,京都テルサにて開催されました.

 本大会の運営をお引き受けくださった大阪大学の村上正行大会実行委員長,中嶌康二大会実行副委員長兼大会企画委員をはじめ,大会実行委員会の先生方の多大なるご協力を賜り,無事に会期を終えることができました.あらためて厚く御礼を申し上げます.

 秋季全国大会では,一般研究発表をポスター形式で実施し,2つのシンポジウム,チュートリアルセッション,企画セッション,そして今年度はPresident Talkが行われました。今年は託児所の設置や懇親会など,コロナ禍以前の内容を復活させました.また,オンライン会場にはoviceを導入し,リアルタイムの発表を試みました.詳細につきましては,この後の報告をご覧ください.

大会が学会員の交流の場であり,新たな教育研究・実践の刺激や検討を促す機会となるよう,大会の在り方については検討をしながら取り組んでいますが,毎年改善点が残ります.限られたリソースを最大に生かしつつ,より良い会となるよう,会員の皆様からの意見を取り入れて実施していきたいと思いますので今後ともご協力をお願いいたします.

日本教育工学会 2023年秋季全国大会(第43回)の御礼
   大会実行委員会委員長 村上正幸(大阪大学)

日本教育工学会2023年秋季全国大会(第 43回)が,2023年9月16日(土),17日(日)に京都テルサで開催されました.今回の大会は,これまでの経験を踏まえて,対面を中心としたハイブリッドでの開催となり,参加申込は825名,対面参加をされた方は,765名となりました.

一般研究発表はポスター形式で行われ,対面が295件,オンラインが25件の合計320件の発表が行われました.対面のポスターセッション会場は,参加者の熱気であふれており,発表者のみなさんがこれまで取り組んできた研究成果についてじっくり議論する機会となりました.オンライン発表は,新たな試みとしてoviceを活用したリアルタイムでの発表を行い,150名を超える参加者が熱心に議論されていました.

シンポジウムやチュートリアルセッションなど,テルサホールでのイベントは対面での開催に加え,オンラインでの配信も行いました.また,プレジデントトークでは同時通訳も導入し,別会場やオンラインでは日本語で聴講することも可能としました.こういった取り組みによって,対面,オンラインそれぞれの特性を活かした研究発表や情報収集の場を提供することができ,日本教育工学会ならではの全国大会になったのでは,と思います.

1日目の夜には,4年ぶりの懇親会が開催されました.200名を超える参加者が,久しぶりに一同に介して飲食をともにし,さまざまな交流がなされていて,大いに盛り上がっていました.また,アクティビティとしてのマジックショーもお楽しみいただけたと思います.

多くの方に参加していただき,大会実行委員長として大変嬉しく思っております.本当にありがとうございました.

最後になりましたが,本大会を無事終了することができましたのは,大会企画委員会,大会実行委員会のみなさまをはじめとして,多くの方のご協力,ご支援があったからです.心より御礼申し上げます.次回の全国大会で,またみなさまとお会いできることを楽しみにしております.

チュートリアルセッション

 2023年度秋季全国大会のチュートリアルセッションは,京都テルサホールによる対面ならびにオンライン形式よって実施された.セッション1は「日本教育工学会へようこそ!全国大会の楽しみ方を教えます!」と題し,9月15日(土)9:00〜9:30に開催された.最初に,学会長の堀田龍也先生(東北大学)から本学会や教育工学の概要について説明された.次に,学会副会長の西森年寿先生(大阪大学)から今大会と各プログラムの楽しみ方について解説された.セッション1は大会企画委員の坂井裕紀(東京大学)の司会によって進められた.セッション1の会場参加者は179名であった.

 セッション2は「投稿論文が採録・掲載されるまでに求められること」と題し,9月16日(日)10:40〜11:10に開催された.最初に,永田智子先生(兵庫教育大学)から教育システム論文が採録・掲載されるまでに求められることについて解説された.次に,緒方広明先生(京都大学)から教育実践論文が採録・掲載されるまでに求められることについて解説された.最後に,大浦弘樹先生(東京理科大学)からITELへの投稿論文が採録・掲載されるまでに求められることが解説された.セッション2は編集委員長の小柳和喜雄先生(関西大学)と副編集長の田口真奈先生(京都大学)の司会によって進められた.セッション2の会場参加者は100名であった.

 セッション3は「投稿時の注意事項,投稿規定の一部修正,投稿と関わる変更事項について」と題し,9月16日(日)13:30〜14:00に開催された.最初に,松田岳士先生(東京都立大学)から投稿前に注意してほしいことについて解説された.次に,今井亜湖先生(岐阜大学)から投稿規程・手引き・テンプレートの一部修正について解説された.最後に,望月俊男先生(専修大学)から投稿と掲載料について解説された.セッション3も編集委員長の小柳和喜雄先生(関西大学)と副編集長の田口真奈先生(京都大学)の司会によって進められた.セッション3の会場参加者は191名であった.

 本大会のチュートリアルセッションは,若手会員・年数の浅い会員だけでなくすべての学会員の研究および学会活動に役立つ情報が得られる機会になった.

チュートリアルセッション
チュートリアルセッション

文責:坂井裕紀(東京大学)

キーノート・シンポジウム1

 キーノートでは,「包摂的な教育のためのAIリテラシー」と題して,板津木綿子氏(東京大学)による講演が行なわれました.講演では,AI技術が深刻な人権侵害を引き起こしたり,社会の歪みを再生産したりする可能性について様々な事例を通して示され,人文社会科学の視点からAIについて考えることや批判的思考力などのリテラシー教育の重要性について指摘されました.

続くシンポジウム1は,JSET重点活動領域「先端科学技術とELSI」副代表の今井亜湖氏(岐阜大学)がコーディネータを務め,「ELSIの視点から先端科学技術の教育活用を考える」と題して,村上祐子氏(立教大学),加納圭氏(滋賀大学)による話題提供の後,キーノートに登壇された板津氏が加わり,議論が行われました.村上氏からは,アルゴリズム的偏見やハルシネーションなどのAI技術による現実的なリスクや各国の規制の状況について報告がなされ,新しいテクノロジーを社会実装する際に起こる様々な倫理的問題点やその背景にある科学的方法論について問題提起がなされました.加納氏からは,自身が代表を務める研究プロジェクト「教育データ利活用EdTechのELSIとRRI実践」で作成された「EdTech(エドテック)ELSI(倫理的・法的・社会的課題)論点101」の開発経緯や概要について報告がなされ,日本版Pledgeやガイドライン等の対応策の必要性について述べられました.総合討論では,ELSIの対応や生成系AIを教育に活用するにはどうすればよいかについて活発な議論がなされました.

 本シンポジウムは,ハイブリット形式で実施され,オンライン参加と現地参加を合わせて400名を超える参加がありました.限られた時間ではありましたが,会場からも質疑があり,先端科学技術を教育に活用する際に起こる様々な問題や対応の必要性ついて考える機会になりました.

JSET重点活動領域「先端科学技術とELSI」部会は,この秋季全国大会から本格的に活動を開始されました.今後,JSETにおいても先端科学技術の教育利用についてELSIの視点からも研究・議論が進んでいくことが期待されます.

シンポジウム1
シンポジウム1

文責:嶋田みのり(東北学院大学)

シンポジウム2

 シンポジウム2(テーマ:教育データを利活用できる教員の養成の在り方)は、今後の教育データの活用を進めていく上で、教員養成段階におけるデータサイエンス教育の方向性について議論し、その指針を示すことを目的として開催されました。コーディネーターは東京学芸大学の高橋純先生、パネリストは滋賀大学の佐藤健一先生、上越教育大学の中野博幸先生、Purdue大学の前田由希子先生でした。

 まずコーディネータの高橋先生から、教員養成において教育データサイエンスの活用が重要視されていること、そして文部科学省Web調査システム「EduSurvey」による教育データの整理が進められているなどの情報を提供いただきました。

 次に、各パネリストからの話題提供がありました。佐藤先生は、滋賀大学データサイエンス学部のカリキュラムとその目的、特に学生が自律的にデータを利活用できるようになることを目指した教育方針について紹介しました。中野先生は、教育現場におけるアンケートの作成や分析方法に関する統計的リテラシーの不足を指摘し、教師が身につけるべき「教える統計」と「務める統計」の2種類について説明しました。前田先生は、アメリカの学校教育における教育データの利活用の状況を参考に、教育実践におけるデータサイエンスの観点や教師に求められるデータリテラシーの要素について説明し、データ駆動型意思決定(Data-Driven Decision Making:DDDM)の重要性を強調しました。

 その後のパネルディスカッションでは、現在の教員養成段階におけるデータリテラシー教育の導入に際しての留意点や考え方について意見交換が行われました。具体的には、基礎的なスキル・知識に多くの時間を割かないこと、教員養成の教育課程で「務める統計」をどの段階で学ばせるか、また実際の教育場面を想定した応用的な学習内容の導入などが議論されました。

 最後に、教員養成段階でのデータサイエンス教育を推進していくための指針として、教員養成・採用・研修の一体的な推進の明確化や、DDDMと統計的リテラシーに関する学習内容を取り入れた教員養成の教育課程の再検討などの必要性が強調されました。

文責:倉田伸(長崎大学)

一般研究発表(ポスター発表)[対面・オンライン]

 一般発表では,合計 320件の発表を対面発表とオンライン発表の2種類の形式で実施しました.対面発表では,会場である「京都テルサ」において合計 295 件のポスター発表を2日間にわたって開催しました.今大会でも昨年から継続して,ポスター会場内のパネル同士の間隔を広めに設置し,発表会場を2カ所(会議室およびセミナー室)に分け,スペースに余裕を持たせた上での開催をいたしました.昨年の対面発表は新型コロナの影響で140件に制限していたため,300件近い発表が会場で行われた今大会では,久しぶりに活気のあるポスター発表が戻ってきたように思えました.

 またオンライン発表では,合計25件のポスター発表がありました.昨年はオンデマンド形式での発表でしたが,今大会でのオンライン発表はoviceというツールを活用し,同時双方向形式で実施しました.学会に対面参加されていた皆様にも懇親会前の時間帯ということもあって会場から多くご参加いただき,活発な議論の場となりました.このオンライン発表は北海道大学オープンエデュケーションセンターの藤岡千也助教をはじめとしたサポート体制を構築していたこともあり,新しい試みではありましたが大きなトラブル無く開催することが出来ました.

 対面・オンラインどちらの発表でも発表者・参加者のみなさまのご協力もあり,円滑に発表を行うことが出来ました.改めましてこの場を借りて御礼を申し上げます.

一般研究発表

文責:福山佑樹(関西学院大学)・山本良太(大阪教育大学)

企画セッション

企画セッションでは,重点活動領域とラインズ株式会社様の企業による企画が実施された.

重点活動領域セッションは9月16日(土)9時50分から11時50分に実施された.「情報教育・学習環境・学習評価から教育工学研究を整理する〜重点活動領域3部会の活動成果報告と次に向けて〜」というタイトルで実施された同企画は,重点活動領域委員長および3部会の部会長による第1期の活動成果報告がされた.その後,第2期に向けての検討ワークショップの形で活動に向けての参加者も含めたアイデア出しが実施された.

企業セッションでは,9月17日(日)11時20分から12時10分に,ラインズ株式会社による「eラーニングの活用による効果~入学前教育から就職筆記試験対策まで~」というタイトルで実施された.当セッションでは,基礎学力強化を観点としたeラーニングの活用による効果について事例を交えながら紹介された.また読解力の基礎力向上を目指した教材や情報リテラシーの基本を再確認できるドリルと活用事例についても紹介され,教材の体験や質疑応答が行われた.

文責:山田雅之(九州工業大学)・宇多清二(内田洋行)