2023/05/31
日本教育工学会2023年春季全国大会(第42回)の報告
日本教育工学会 2023 年春季全国大会(第 42 回)の報告
大会企画委員会副委員長 松河秀哉(東北大学)
日本教育工学会 2023 年春季全国大会(第 42 回)は,2022 年 03 月 25日(土)~26 日(日)の2日間にわたり,東京学芸大学で開催されました.2020年に全国大会が2回化されて以降初めての対面での春期全国大会となりました.
本大会の運営をお引き受けくださった東京学芸大学の森本康彦大会実行委員長,高橋純大会実行副委員長,北澤武大会企画副委員長兼大会実行副委員長をはじめ,大会実行委員会の先生方の多大なるご協力を賜り,無事に会期を終えることができました.この紙面をお借りして,あらためて厚く御礼を申し上げます.
春期全国大会は口頭発表を主な発表形態としており,International Sessionと学生セッションを含む284件の発表が行われました.それに加えて,チュートリアルセッション,2件の自主企画セッション,「情報教育部会」,「学習環境部会」,「学習評価部会」の3つの部会による重点活動領域セッション,企業企画セッション,会員アンケート報告セッション,SIGセッション及びシンポジウムが行われました.2日間で昨年を200名以上上回る,745名の方にご参加頂き,YouTube Liveで一般公開されたシンポジウムは,150名以上にご視聴頂きました.
また,今大会から,学生による優れた研究とその成果の発表を奨励することを目的として,「学生セッション優秀発表賞」が設定され,4名の学生セッションでの発表者に対して,大会企画委員会から賞が授与されました.受賞された皆様,おめでとうございます.
改めまして,ご発表いただいた会員の皆様,協賛くださった,企業の皆様に感謝の意を表したく存じます.
本大会後に行ったアンケートでは,8割の方から,非常に満足もしくはやや満足との回答を頂いております.アンケートに寄せられたご意見につきましては,大会企画委員会内で検討し,次回以降の大会の改善につなげる所存です.
次回2023年秋季全国大会は2023年9月16日(土)~9月17日(日)に京都テルサで,2024年春季全国大会は2024年3 月2 日(土)~ 3日(日)に熊本大学黒髪キャンパスで開催されます.大会企画委員会では,参加者の皆様の研究・実践の発表の場となると同時に,会員の皆様の交流を深める場にもなることを目指し,よりよい大会運営を目指して参ります.是非,引き続きご参加くださいますよう,よろしくお願いいたします.
日本教育工学会 2023年春季全国大会(第42回)の御礼
大会実行委員会委員長 森本康彦(東京学芸大学)
日本教育工学会2023年春季全国大会が,2023年3月25日(土)から26日(日)に東京学芸大学で開催されました.長い間続いたコロナ禍の状況を乗り越え,私たちの待ち望んだ願いがついに実現し,3年ぶり,6大会ぶりの全面的な対面開催となりました.
あいにく2日間,雨の中での開催となりましたが,745名参加者の方々が駆けつけてくださりました.参加者の皆さん一人一人とあいさつを交わし,お互いの研究について情報交換したり,質問しあったり,熱心に議論することができ,対面ならではのよさを改めて感じることができたと思います.参加してくださった皆様に心より感謝申し上げます.ありがとうございました.
大会の各セッションでは,対面で285件の研究発表が行われ,教育工学研究者たちが最新の研究成果や現場の実践経験を共有し,意見を交換する場として,大いに活気に満ちたものでした.
また,大会では多彩なプログラムが展開されました.1日目の重点活動領域セッションでは,各部会からの報告や今後の活動計画が共有され,会員アンケート報告セッションでは学会の運営や展望についてディスカッションが行われました.2日目には,SIGセッションやシンポジウムが開催され,幅広い立場からGIGAスクール構想の教育工学への影響や役割について議論されました.本大会の新たな試みである「学生セッション優秀発表賞」の授与では,若い研究者たちの優れた研究と成果の発表が奨励され,大会参加者からは高い関心と期待が寄せられました.
特に注目されたのはシンポジウムです.このシンポジウムでは,「データから見えるGIGAスクール構想の今,1人1台端末時代に求められる教師の力量とそれを高めるための学びのあり方」「1人1台情報端末での学びをどうデザインするか」「授業外における一人一台情報端末を活用した子どもの学び」「子供が主体的に学び取る授業へ〜クラウド環境を活かした授業デザイン〜」などのテーマについて,多様な立場からの議論が展開されました.このシンポジウムは,対面で来られた参加者の皆さまのみならず,YouTube Liveでも配信され,会場に来ることができなかった会員の皆様だけでなく,非会員の皆様にもご覧いただくことができ,多くの方々が本大会の魅力を知るきっかけとなりました.
最後に,この大会の成功には多くの関係者のご尽力がありました.ご支援いただいた方々に深く感謝申し上げます.また,参加者の皆様には,充実した2日間をお過ごしいただけたこと心から喜んでいます.
日本教育工学会2023年春季全国大会は,教育工学の最新動向を共有し,研究者同士の交流を促進する重要な場となりました.次回の大会でも,皆様と再びお会いできることを楽しみにしております.
チュートリアルセッション
チュートリアルセッションは,「JSETへようこそ!〜有意義な大会・研究会にするための質問・発表の心得とは〜」と題し,03月25日(土)8:45〜9:15の時間帯で開催された.
本セッションの主な対象者は,学生,学会での発表に不慣れな参加者であった.学生会員である居原田梨佐(電気通信大学大学院),鍋谷航平(電気通信大学大学院)の疑問に,二人の指導教員である江木啓訓(電気通信大学),学会副会長の村上正行(会員サービス担当;大阪大学)が答える「座談会方式」で行った.大会や研究会への参加にあたっての心得として,質問をもらえる発表の仕方,質問の仕方のヒントを提供することを目的とした.
セッション冒頭では,村上学会副会長から本学会の概要,諸活動,および春季全国大会の概要についての説明があった.その後,(1)発表・質疑応答での伝え方,(2)質疑応答での受け答え,(3)発表の心構え,(4)質問の考え方の仕方,の4点の質問がされた.これらに対して,発表や質疑応答では,研究の背景や前提条件を聞き手にわかりやすく説明すると良いと回答があった.また,発表の心構えについて「自分の浅い経験や内容で不安がある」という学生会員のコメントに対し,聞き手は自分の研究に興味を持って聴きにきてくれているということ,発表者はどういう研究をして,どんな結果を得られたのかを伝えられれば十分であることが回答された.最後に,質問の考え方については,その研究をより良くするためにはどうしたらいいかという観点で,たとえば,この研究をどう考えて着手したか,どこが難しかったか,どんな可能性があるのか,などを聞いてみるといいということが回答された.
村上からは,学会員は仲間であり,研究者としては皆フラットな関係なので,遠慮せずに質問をしてほしいこと,また,多少失敗しても何かが起こるわけではないので,自分の研究について自信を持って発表してほしいことが強調された.
(文責:石川奈保子)
重点活動領域セッション
重点活動領域セッションは03月25日(土)11:00~17:00の時間帯で開催された.「情報教育部会」「学習環境部会」「学習評価部会」の各部会が90分ずつ,話題提供に加えて登壇者と参加者の議論を行った.
まず,「情報教育部会」から2つのテーマで研究成果の報告が行われた.1つは初中等教育におけるプログラミング教育や情報モラル教育の研究動向に関する報告,もう1つが教員養成系学部学生を対象としたICT活用の指導能力に関する報告であった.その後同テーマに関する話題提供者と参加者間で議論を行い,内容に関する理解を深めた.次に「学習環境部会」からは,日本の学校教育における課題解決に学習環境研究がどのように寄与しうるかについて,これまでの学習環境研究の動向や学習環境に関する国内の政策を踏まえて報告された.また,学習環境研究の動向について研究レビュー結果について報告があった.研究レビューの対象となったテーマは,学校教育におけるDX,VR,CALL,CSCLなどであった.センサを用いた学習活動の測定や学習環境デザインについても,具体的な研究成果をもとにして報告された.最後に「学習評価部会」からは,2022年度に同部会で実施した研究会の概要報告を踏まえ,学習評価研究において今後検討すべき視点の提起があった.加えて,教科等横断的な資質・能力の育成と,当該資質・能力の評価手法についてCan-do Statementsの開発と,それを基にした指導と評価に関する研究報告もあった.
いずれの部会の内容も,これまでの教育工学研究を概観し,研究の到達点や展望,さらには実践への活用可能性と課題に言及したものであり,参加者の研究および学校教育の実践に関して示唆に富むものであった.
(文責:竹中喜一)
学生セッション
今春大会でも,教育工学に関わる若手育成,若手研究の奨励を目的として,学生セッションが実施され,14セッション(計48件)で発表が行われた.今大会から,特に優れた発表に対して,大会企画委員会から学生セッション優秀発表賞が授与されることになり,今回は以下の4つの研究発表が選ばれた.
・「プログラミング教材としてのコーヒーメーカーモデルの開発と評価」
山下大吾(広島大学大学院)谷田親彦(広島大学)
・「高校での小規模な遠隔授業における授業型の分類」
池田柊(北海道大学)杉浦真由美(北海道大学大学院)重田勝介(北海道大学)
・「高等学校における主体的な学習と数学の3つの学習観との関係の特定」 石井魁晟(東京理科大学)中村謙斗,渡辺雄貴(東京理科大学大学院)
・「学習環境に着目したクラウドを基盤とした協働学習の分析の試み」
村上唯斗(東京学芸大学大学院)小川晋,水谷年孝(春日井市立高森台中学校)
高橋純(東京学芸大学)
座長をご担当頂いた先生方や評価に関わってくださった先生方,発表を聞きに来てくださったみなさまのご協力のもと,どのセッションも活発な意見交換が行われ,有意義な研究発表の時間になっていた.
(文責:遠海友紀)
会員アンケート報告セッション
本セッションでは,企画戦略WGを中心に実施した「日本教育工学会会員サービス向上と国際化に向けた意識調査」の結果を報告するとともに,本学会における中期計画策定に向けた学会運営や展望について議論した.セッションの進行は,本WGの副リーダーである瀬戸崎典夫氏(長崎大学)が司会として担当した.
まず,企画戦略WGの活動概要とアンケートの主旨について,戦略・国際担当副会長であり,本WGのリーダでもある美馬のゆり氏(公立はこだて未来大学)が説明した.次に,松田岳士氏(東京都立大学)が調査の位置付けやアンケート作成の経緯について説明するとともに,本学会に対するニーズについて,学会員の属性や非会員との比較を観点とした分析結果を報告した.さらに,岩﨑千晶氏(関西大学)と大山牧子氏(大阪大学)が「自身のキャリアと学会との関係」や,「学会への要望」,「国際会議」等の質問に対する自由記述の結果について報告した.
以上の報告を受けて,本セッションへの参加者と企画戦略WGのメンバーを交えた6〜7名程度のグループにて,本学会の運営や今後の展望について議論した.さらに,約30分の議論の後に,各グループでの議論の内容を全体で共有した.最後に,本セッションにおける報告や議論の内容を踏まえて,益川弘如氏(聖心女子大学)が今後の展望について言及した.
(文責:瀬戸崎典夫,現企画戦略国際委員会委員長 岩﨑千晶)
SIGセッション
SIGセッションは03月26日(日)14:10~14:30に開催された.SIGセッションでは,まず,重田勝介SIG委員会委員長(北海道大学)より,特定のテーマに興味・関心を持つ会員がグループを形成し,研究会やセミナー等年間を通して活動を行い,学会員のコミュニティ形成を図る場としてのSIG(Special Interest Group)の位置づけが説明され,2022年1月にSIGがリニューアルしたこと,2023年度にSIGの新規募集すること,会員専用ページからSIGに参加する方法について説明がなされた.
続いて,5つのSIGの関係者より,各SIGの紹介が行われた.「SIG-TL 教師教育・実践研究」については,副代表の今井亜湖氏(岐阜大学)より,SIG設立の趣旨,TLという略称に込められた意味,今後の研究会・ワークショップなどの計画等が紹介された.「SIG-ML メディア・リテラシー,メディア教育」については,副代表の佐藤和紀氏(信州大学)より,SIG設立の趣旨,講演会やワークショップ,研究発表などの活動状況と今後の活動予定等が紹介された.「SIG-ID インストラクショナルデザイン」については,代表の高橋暁子氏(千葉工業大学)より,インストラクショナルデザインの概要,SIGの目的,2022年度に実施した定例ゼミ,輪読会およびFD研修会,2023年の活動予定が紹介された.「SIG-CL 協調学習・学習科学」については,副代表の大浦弘樹氏(東京理科大学)より,SIGの目的,CSCLの現状,2022年度に実施した体験型ワークショップ,過去の活動や出版物,今後の研究会の予定等が紹介された.「SIG-AI 人工知能の教育利用」については,代表の喜多敏博氏(熊本大学)より,コアメンバーや,過去の活動,2022年度に実施したJupyter Notebookを用いたワークショップが紹介され,SIGセッションは終了した.
(現SIG委員会委員長 重田勝介)
シンポジウム
大会2日目の最後のプログラムでシンポジウムでは,「1人1台端末時代における教育工学研究の役割」が開催された.中橋雄氏(日本大学)のコーディネートのもと,行政・研究者・実践者など多様な立場からこれまでの取り組みの話題提供がおこなわれ,これからの時代において期待される教育工学研究の役割についてディスカッションが行われた.
話題提供では, 武藤久慶氏 (文部科学省)からは,文部科学省担当者の立場で「データから見えるGIGAスクール構想の今」というタイトルでGIGAスクール構想における現状と課題について調査のデータや実例が示され,その課題が呈された. 長谷川菜々氏 (仙台市立錦ケ丘小学校)からは,教育実践者の立場で「子供が主体的に学び取る授業へ〜クラウド環境を活かした授業デザイン〜」というタイトルで,ICTを活用することによる,子どもの学びの家庭と学校での変化について実践に基づいた報告がなされた. 小池翔太氏(東京学芸大学附属小金井小学校)からは教育実践者実践者の立場で「授業外における一人一台情報端末を活用した子どもの学び」というタイトルで,特別活動など授業外における児童の主体的な活用とそれによって変容したコミュニケーションの在り方について実践に基づいた報告がされた.稲葉利江子氏(津田塾大学)からは,教育支援を目的としたシステム開発研究者の立場で「1人1台情報端末での学びをどうデザインするか」というタイトルで,現場の状況の変化を踏まえたシステム開発の重要性が指摘された. 木原俊行氏 (大阪教育大学)からは,実践研究・教師教育研究者の立場で,「1人1台端末時代に求められる教師の力量とそれを高めるための学びのあり方」というタイトルで,教師の授業力量研究に基づいてICT活用指導力を高める教師の学びについて,教育現場における教師と子供の絶対的な信頼の重要性が示された.
ディスカッションでは,1人1台端末時代において,教育現場で児童の学びが広がるための要因や,そこから得られる教師の学び,また教育工学研究としての今後の役割について,それぞれの立場から議論がなされた.限られた時間ではあったが,ICT活用の教育の未来志向の議論ができて有意義であった.本シンポジウムは,全国大会参加者に向けて会場並びにサテライト会場で進行したが,YouTube Live上でも一般公開され,合計で300名を超える参加があった.
(文責:大山牧子・今野貴之・長濱澄)