2022/11/30
日本教育工学会2022 年秋季全国大会(第41回)の報告
シンポジウム1
2022年09月10日(土),11日(日)に開催された,日本教育工学会2022年秋季全国大会(第41回)について,報告させていただきます.
今回の大会では,2年ぶりとなる対面開催とオンラインによるハイブリッド型の大会を,川崎市教育委員会との共催として,企画,運営を行いました.最終的な参加登録者数は,一般会員408人,学生会員182人,非会員58人,非会員学生43人,関係者21人,招待38人,名誉会員1人の,合計751人で,対面参加をされた方は,407人となりました.
講演論文集の実行委員長挨拶でも触れましたが,ここ数年,COVID-19の影響により,不要不急の学術的なイベントが中止,もしくはオンライン開催となってしまいました.一方,私たちは,研究活動を「中止」にはしていません.教員,研究者,大学院生,すべての学会構成員が,この数年間,あらゆる工夫の中で研究活動を継続されてきたことは,周知の事実であり,私たちの生み出した知見が,将来の教育工学分野における学術的基盤を支えていくことになると確信しています.しかしながら,私たちに足りなかったものは,その知見をより精緻なものにしていくための議論ではないかと思っていました.秋季大会は予てから「じっくり議論」を合い言葉に企画,運営がなされてきました.この日本教育工学会の風土を,しっかり継承すべく,大会実行委員会,大会企画委員会で議論しながら,当日を迎えました.
その結果,対面発表は140件,オンデマンドでの発表は137件となり,たくさんの方々の研究成果を,じっくり議論する機会となりました.ポスターセッション会場では,各セッションで,熱い議論がなされていました.
しかしながら,COVID-19の脅威の中での大会では,参加者の皆さまに,たくさんのご協力を頂きました.ご不便,ご迷惑をおかけしたこともあったと思いますが,多くの皆さまのご協力に支えられ,無事に大会を終了することができました.川崎市教育委員会の皆さま,関係者の皆さま,参加者の皆さまに心から感謝申し上げます.ありがとうございました.続いて,シンポジウム,チュートリアル,企画セッション,一般発表について各担当者の先生方から,ご報告させていただきます.
大会実行委員会委員長 渡辺雄貴(東京理科大学)
シンポジウム1
キーノートでは,安田クリスチーナ氏(マイクロソフト)が「テクノロジーだけでは成し遂げられないこと」と題して講演した.登壇者が専門とされている分散型アイデンティティについて,マイクロソフト米国本社で担当されている規格化の話や国際NGOで行われているザンビアでの実証実験の話,また登壇者本人のこれまでの取り組みから,これからの日本の教育の在り方について示唆を頂くような講演をしていただいた.
シンポジウムでは,「AI活用・教育データの利活用とその課題」と題して,引き続き登壇の安田氏のほか,パネリストとして,桐生崇氏(文部科学省),緒方広明氏(京都大学),堀口悟郎氏(岡山大学),指定討論者として美馬のゆり氏(公立はこだて未来大学),コーディネータとして村上正行氏(大阪大学)によって討議が進められた.
桐生氏は,「教育DX・教育データ利活用の政策の方向性」と題して報告を行い,政策的な観点から文部科学省の教育DX推進体制や教育データの標準化,また文部科学省CBTシステムMEXCBTの状況,最後に教育データ利活用の事例について報告があった.続いて,緒方氏は,「AIと教育データの利活用の研究と実践」と題して報告を行い,教育データの利活用のための情報基盤としてLEAFシステムの紹介とそれらを用いた主体的・対話的で深い学びの支援,今後の課題と展望について報告があった.堀口氏は,「教育データ利活用と憲法」と題して報告を行い,教育データ利活用に関する憲法上の論点として,プライバシー権,教育を受ける権利,教育の自由の三つの観点から報告を行った.続いて,指定討論者の美馬氏から,AIの倫理やビッグデータ活用の問題について問題提起があり,その後の討論では,美馬氏が示した論点を基に,登壇者間で活発な議論が行われ,AIを巡る科学コミュニケーションや科学リテラシーの重要性などについて話題となった.
文責:石井雄隆(千葉大学)・村上正行(大阪大学)
シンポジウム2
本シンポジウムでは「先進的な研究と教育実践の開発・成果の普及を両立させるために~ポストGIGAスクール時代の研究を目指して~」と題して,寺嶋浩介氏(大阪教育大学)と古田紫帆氏(大手前大学)がコーディネータを担当され,第1部「GIGAスクール構想の実践的展開に見る教育現場と研究者のパートナーシップ」と第2部「ポストGIGAスクール段階で求められる研究」の2部構成で行われました.
第1部では,パネリストとして三井一希氏(山梨大学),稲木健太郎氏(壬生町教育委員会),山本良太氏(東京大学),石橋純一郎氏(川崎市総合教育センター)が登壇されました.三井氏と稲木氏からは,研究者と実践者のパートナーシップを入り口として,研究者と学校のパートナーシップの構築について話題提供がありました.また,山本氏と石橋氏からは,東京大学・川崎市総合教育センター・内田洋行との共同研究を通した連携について,研究者と自治体とのパートナーシップについて話題提供がありました.
第2部では,重点活動領域委員会での活動とも関連付けられ,パネリストとして,深見俊崇(島根大学/学習評価部会),森下孟(信州大学/情報教育部会),三井一希(山梨大学/学習環境部会)が登壇されました.第1部で議論された現在地の議論を踏まえ,第2部では今後の研究について,それぞれの視点から議論がなされました.
最後に,第1部の内容も踏まえて,オンラインのアンケートツールで参加者から寄せていただいた質問にも答えながら,第1部と第2部の全体をコーディネータの寺嶋氏と古田氏から整理されました.
本シンポジウムは,現地での開催に加え,YouTube Liveでの配信も行われ,現地では約100名の参加,YouTube Liveでは約150名の視聴があり,合わせて250名の方々にお聞きいただきました.本学会の会員だけでなく,開催地の川崎市の皆様をはじめとする多くの皆様にとって,今後の取り組みのヒントとなることが期待されるシンポジウムとなりました.
文責:板垣翔大(宮城教育大学)
チュートリアル
今年度のチュートリアルセッションは,会場での対面参加ならびにZoomによるオンライン参加のハイブリッド型で実施され,いずれのセッションにおいても対面・オンラインともそれぞれ100名近い参加を得ての開催となった.
セッション1は,「JSETへようこそ!全国大会を楽しむ方法を教えます」(09月09日(土)09:30~)と題し,2022年度秋大会の最初のプログラムとしてスタートした.まず本学会会長である堀田龍也先生(東北大学)から本学会での研究活動の概要や教育工学についての解説があり,学会活動への積極的な参加の促しがあった.続いて,学会副会長(会員サービス担当)である村上正行先生(大阪大学)からは,ハイブリッド型での開催となった本大会の各プログラムの楽しみ方が紹介された.
大会二日目,午前最初のプログラムとして開催されたセッション2では,「論文賞受賞者に聞く,査読対応の極意」(09月11日(日)09:30~)と題し,大会企画委員会と編集委員会の共同にて開催された.本セッションでは,大浦弘樹先生(東京理科大学)が本学会の論文賞受賞経験者として,瀬戸崎典夫先生(長崎大学)が聴き手として登壇され,対話方式にて,投稿論文の査読対応における考え方や工夫のコツについて紹介された.瀬戸崎先生からの「複数の採録条件があるときにどのような順序で対応していったのか?」や「論文執筆の段階で査読を意識しているのか?」などの問いに対して,大浦先生は事例を交えながら回答され,これから論文投稿をする聴講者には大いに参考となる情報が提供された.
セッション3は,「論文掲載に関するトラブルを避けるためには」(09月11日(日)13:40~)と題し,セッション2と同様に大会企画委員会と編集委員会の共同にて開催された.まず編集委員会編集長である山内祐平先生(東京大学)から,本セッションが「不適切な引用による掲載論文の取り消し」などの論文掲載に関するトラブルを未然に防ごう,という主旨のもと企画されていることについて説明があり,次に副編集長である小柳和喜雄先生(関西大学)から,実際にあった論文掲載取消案件についての解説があった.続いて,編集委員会担当理事である望月俊男先生(専修大学)からは,実例を挙げ,これまでにあった厳重注意案件における学会の対応内容などについて解説があり,「研究の過程での分析手続きやデータを残すこと」「共著者との確認作業を徹底すること」など,研究者として取り組むべきことが提示された.最後に山内先生より,編集委員会における直近の取り組みとして,剽窃チェックソフトウェアの導入,啓発活動,著作権規程の整備について紹介があった.
いずれのセッションも,本学会会員,特に若手会員や年数の浅い会員にとって,今後の研究活動,学会活動において有益な情報を得られる機会となった.
文責:中嶌康二(関西国際大学)
企画セッション
09月10日(土)と11日(日)に,重点活動領域委員会,NHK(日本放送協会),そしてラインズ株式会社が企画した3つのセッションが行われました.
企画セッション1では,重点活動領域委員会委員長の瀬戸崎典夫氏(長崎大学)が,日本教育工学会における重点活動領域の設立経緯,目的について説明しました.また,情報教育部会長の寺嶋浩介氏(大阪教育大学),学習環境部会長の稲垣忠氏(東北学院大学),学習評価部会長の深見俊崇氏(島根大学)の司会のもと,各部会の活動状況の進捗が報告されました.情報教育部会からは,情報教育に関する研究動向や今後の指針に加えて,教員養成課程の大学生を対象に実施した予備調査の結果が報告されました.学習環境部会からは,部会として手掛かりとする学習環境のフレームワークが示されるとともに,部会のコアメンバーが注目する学習環境に関する研究レビューが紹介されました.そして学習評価部会からは,2022年度に開催した3つの研究会の取り組みが報告されるとともに,今後の展開について説明されました.最後に,質疑応答の時間を設け,本活動の目的や内容について議論しました.
企画セッション2・3(1)では,NHK(日本放送協会)が3回に分けて開催しました.1人1台端末環境で作業できる各種学習支援ツールに対応し,思考ツールなども活用した作業シートや,その中で動かしたり並べたりする素材を提供し,デジタルワークシートの作成をサポートしました.児童への配布シートにNHK for Schoolの動画を貼り付け,簡単に動画へ移動する場面を体験しました.これらの「考えるやるキット・理科」の授業プランを用いた模擬授業も行いました.初めて「考えるやるキット・理科」を操作する人を対象に,利用するためのノウハウを伝えました.
企画セッション2・3(2)では,ラインズ株式会社が,「オンラインでの基礎学力強化・入学前教育・就職筆記試験対策とテストのWeb化」をテーマとし,2回開催しました.5教科のリメディアル教育用サービス「ラインズドリル」,就職筆記試験対策用サービス「ラインズSPI」,大学独自のテストをWeb上で実施可能とするサービス,学生の読解力強化のための「読解スキル養成ドリル」,情報リテラシーの習得の度合いを確認することのできる「情報リテラシー確認ドリル」の使い方を,事例を交えて紹介しました.参加者はこれらの教材を体験し,意見交換を活発に行いました.
文責:瀬戸崎典夫(長崎大学)・小林由昭(株式会社内田洋行)
宇多清二(株式会社内田洋行)・坂本將暢(名古屋大学)
一般発表
一般発表では,合計277件の発表を対面発表とオンデマンド発表の2種類の形式で実施しました.対面発表では,会場である「カルッツかわさき」において合計140件のポスター発表を2日間(両日70件ずつ)にわたって開催しました.新型コロナウイルス感染症対策として,ポスター会場内のパネル同士の間隔を広めに設置したため,ポスター発表会場を2カ所(大会議室およびアクトスタジオ)に分け,スペースに余裕を持たせた上での開催でした.さらに,発表者がポスター前で発表に従事する時間(コアタイム)を前半後半に分けることで発表者同士の距離を広くとるという工夫を取り入れました.通常とは異なる方法で開催したポスター発表でしたが大きなトラブルもなく,活発な議論が多く展開されていた様子でした.皆様のご協力のおかげで,久々の対面による発表をJSET全国大会で行うことができたことに改めて感謝申し上げます.
オンデマンド発表では,合計137件のポスター発表がありました.今回のオンデマンド発表は,PDF形式のポスターのファイル・発表動画のURL・オンラインディスカッションのURLを,参加者専用サイトで共有するという形式で開催しました.上記のデータを共有する際に,オンラインディスカッションの書き込み権限の設定がうまく行かなかったなどの事例が数件ありましたが,発表者の迅速なご対応により全てのオンデマンド発表が滞りなく行われました.
今回の一般発表では,事前に発表者に対面発表とオンデマンド発表の希望をとった上でプログラムを編成しました.しかし,新型コロナウイルス感染症対策による対面発表件数の上限があったことから,発表者全員の発表形式に関する希望に沿うことができませんでした.改めまして,この場を借りてお詫び申し上げますとともに,発表者のみなさまのご協力に感謝申し上げます.
文責:倉田伸(長崎大学)・福山佑樹(関西学院大学)