2022/11/23
日本教育工学会2022年春季全国大会(第40 回)の報告
日本教育工学会2022年春季全国大会(第40回)は,2022年03月19日(土)~20日(日)の2日間にわたり,オンラインで開催されました.本大会の運営をお引き受けくださった鳴門教育大学の藤村裕一大会実行委員長,泰山裕大会企画委員会副委員長をはじめ,大会実行委員会の川上綾子先生,藤原伸彦先生,江川克彦先生,林向達先生らの多大なるご協力を賜り,無事に会期を終えることができました.この紙面をお借りして,あらためて厚く御礼を申し上げます.
さて,2022年春季大会は,昨年度に引き続いてのオンライン開催となりました.191件の発表,1件の自主企画セッション発表が行われ,525名の方にご参加をいただきました.特に,シンポジウムに関しましては,Webinarでの視聴者は197名,YouTube配信での視聴者は100名と多くの方がご視聴くださいました.また,今大会では,昨年に引き続き,全国大会ウェブサイトにおけるバナー広告の設置や,協賛してくださった企業のPRタイムを実施いたしました.バナー広告には9社,企業PRタイムには5社からご応募をいただきました.ご発表いただいた会員の皆様,協賛くださった企業の皆様に感謝の意を表したく存じます.
大会企画や運営に関しましては,46名の参加者の皆様から大会参加者アンケートにご回答いただきました.集計結果から,オンライン開催全体について,非常に満足・やや満足と評価してくださった参加者は,86.9%となっておりました.理由として,「家庭の都合で,現地開催だと参加が難しかったが,オンラインのおかげで,フル参加が可能となった」「Zoomのブレークアウトルーム活用のほうが色々な発表を見ることができる」などの意見を賜りました.一方で,「対面のように(発表者に対して)気軽に声をかけられない」「一般発表で質疑や意見交換の機会が少ない」といったご意見も賜りました.これらアンケートへの回答につきましては,大会企画委員会内で検討し,次回以降の大会につなげて参る所存です.
2022年秋季全国大会は,2022年09月10日(土)~11日(日)に,カルッツ川崎を会場とした対面開催とオンライン開催を組み合わせて開催いたします.また,2023年春季全国大会は,2023年03月25日(土)~26日(日)に東京学芸大学にて開催されます.大会企画委員会では,参加者の皆様の研究・実践に寄与するとともに,会員の皆様が相互につながっていくコミュニティの構築を目指し,よりよい大会運営を行って参ります.是非,ご参加くださいますようお願いいたします.
大会企画委員会委員長 森田裕介(早稲田大学)
自主企画セッション
春季全国大会では,昨年度に引き続き,03月20日(日)09:00~10:30まで,科学研究費補助金等の研究成果の展開を目的に自主企画セッションが開催され,1件の自主企画セッションが開催された.自主企画セッション「行動センシングが開く新たなエビデンスに基づく子どもの学びの理解」では,キャノン財団研究助成プログラム「善き未来をひらく科学技術」に採択された研究プロジェクト「非認知能力の育成環境の解明による人の問題解決能力の向上」に基づく発表が行われた.
まず,認知科学の立場から大森隆司氏(玉川大学)より研究課題の説明とこれまでの研究の経緯,企画セッションの趣旨及び各発表の位置付けについて説明があった.
次に,教育の立場から山田徹志氏(玉川大学)より「子どもの位置と向きから見る活動場の分類と子どもの参加」のタイトルで講演があった.講演では,「関心は学習者の内的状態を顕すもので,行動に顕れる」ということを前提に,保育の活動場面での子どもの関心と行動を人手により記述し,AIにより集団活動の分類と個々人の行動を分析することで,子どもの授業参加や特性が推定できることが説明された.
続いて,工学の立場から宮田真宏氏(玉川大学)より「視線分布から見る教室状況と個々人の授業参加」のタイトルで講演があった.講演では,子どもの行動観察のために開発されたセンサーシステムによって得られた映像から,授業中の子ども達の視線を抽出すると,皆が特定のものを見る瞬間があり,そこから子ども個々人の特性がわかり,さらにその縦断的変化も追跡できるということが説明された.
続いて,工学の立場から丸山真優子氏(玉川大学)より「身体の動きから見る子どもの特性」のタイトルで講演があった.講演では,「身体の動きから,子どもの授業への集中や個人特性が推定できそう」という前提のもと,落ち着きのない子どもは単に体の揺らぎが大きいだけなのか,本当に授業に集中していないのか,AIによる画像分析の結果から評価を行った試みについて説明があった.
その後,指定等論が行われ,幼稚園や小学低学年の教育の立場から指摘された本研究プロジェクトへの期待や危惧について,参加者を交えて活発な議論がなされた.
(文責:長濱澄)
SIG セッション
SIGセッションは03月20日(日)14:10~14:30にWebiner上で開催された.SIGセッションでは,まず,永田智子SIG委員会委員長(兵庫教育大学)より,特定のテーマに興味・関心を持つ会員がグループを形成し,研究会やセミナー等年間を通して活動を行い,学会員のコミュニティ形成を図る場としてのSIG(Special Interest Group)の位置づけが説明され,学会の法人化に伴い2022年01月よりSIGが5つに再編されたことが示された.
続いて,5つのSIGの関係者より,各SIGの紹介が行われた.「SIG-AI人工知能の教育利用」については,代表の喜多敏博氏(熊本大学)より,コアメンバーや,過去の活動,AIを用いたワークショップの事例,今後の研究会の予定等が紹介された.「SIG-CL協調学習・学習科学」については,副代表の大浦弘樹氏(東京理科大学)より,SIGの目的,CSCLの現状,過去の活動や出版物,今後の研究会の予定等が紹介された.「SIG-IDインストラクショナルデザイン」については,代表の高橋暁子氏(千葉工業大学)より,インストラクショナルデザインの概要,SIGの目的,過去の活動,今後予定している定例ゼミ,ワークショップ,IDに関する研究レビュー等が紹介された.「SIG-MLメディア・リテラシー,メディア教育」については,副代表の佐藤和紀氏(信州大学)より,SIG設立の趣旨,メディア・リテラシーの体系化に関するこれまでの活動や成果,1人1台情報端末自体を見据えた今後の活動予定等が紹介された.「SIG-TL教師教育・実践研究」については,代表の坂本將暢氏(名古屋大学)より,SIG設立の趣旨,Teaching & Learning,TeacherLearning,Technology in Learningなど,TLという略称に込められた意味,今後の研究会・ワークショップなどの計画等が紹介された.
最後に,重田勝介SIG委員会副委員長(北海道大学)より,学会の会員専用ページからSIGに参加する方法について説明がなされ,SIGセッションは終了した.
(文責:松河秀哉)
学生セッション
今春大会でも,教育工学に関わる若手育成,若手研究の奨励を目的として,学生セッションが開催された.このセッションは学生のみで発表者を構成し,通常の研究発表の後,セッション内でディスカッションの時間(20分間)を設けた.今回は,4つのセッションで計14件の発表があった.
発表は,様々な研究テーマで構成され,発表後の質疑応答やセッション最後のディスカッションでは,発表者が抱えている課題への解決案や新たな視点の提供など,様々な視点からのコメントやアイディアが述べられ,今後の研究の発展に寄与する機会となっていた.セッション内にディスカッションの時間を設けることは,今回初めての取り組みであったが,座長をご担当頂いた先生方のご協力のもと,どのセッションでも有意義な意見交換の時間となった.また,ディスカッションの時間を設けることで,1つ1つの発表について時間をかけて議論する様子が見受けられた.
(文責:遠海友紀・辻宏子)
シンポジウム「教育工学における教育実践研究のススメ」
本シンポジウムは,教育工学分野における教育実践研究について,その在り方や方法を改めて議論し,共通認識を高めていくことを目的に二部構成で実施された.第一部は,教育実践研究における実践方法,データ分析,論文化などの悩みやそれを乗り越えるための秘訣について事例をふまえて3名から話題提供をいただいた.第二部では,教育実践研究を論文誌で採用している隣接領域の学会からパネリストをお招きし,学術誌における教育実践研究の意義や位置付けなど,俯瞰的な視点での議論を通して,教育工学における教育実践研究の発展を議論した.本シンポジウムは,全国大会参加者に向けてZoomウェビナーを通して配信された他,YouTube Live上で一般公開され,合計で300名を超える参加があった.
第一部「教育実践研究の『質』をあげるために」では,これまで教育実践研究に取り組んでこられた先生方に話題提供いただいた.授業実践を研究としてまとめる際に直面するであろう3つの悩みを軸に,瀬戸崎典夫氏(長崎大学)より「研究方法に関する工夫と悩み」,姫野完治氏(北海道教育大学)より「実践を対象化する際のスタンス・悩み・工夫」,伏木田稚子氏(東京都立大学)より「授業での倫理的配慮の悩みと工夫」のようにそれぞれの経験をもとにして,予想通りにいかない場合の苦労や工夫,そして,それらをどのように乗り越えてきたのか具体的な方法から,その際の心の持ちようまで幅広い話題を提供いただいた.
第二部「教育工学における教育実践研究の発展」では,パネルディスカッション形式で進められた.本学会から山内祐平氏(東京大学),日本教育心理学会から奈須正裕氏(上智大学),教育システム情報学会から三石大氏(東北大学)がそれぞれの学会における教育実践研究の現状や成り立ちを述べた.その後のディスカッションでは,教育実践研究の課題として新規性を担保しつつ,過度な一般化を避け実践の中の価値を表現していくことの重要性について,それぞれの学会におけるこれまでの論文誌の変遷と併せて議論がなされた.
シンポジウム後のアンケートからは「大学の先生方も悩みながら研究を進めるなかで,おもしろさ・ワクワクを伝えたいという想いを持って論文を書かれていることがわかり,自分も論文を書き上げようと思った」「論文化することは,コストもかかることだが,歴史に刻むことであるという内容が印象的でした」のような今後の教育実践研究の推進や論文執筆にむけた前向きな意見を多数いただいた.
限られた時間のなかで6名の登壇者による議論が,今後の教育工学領域における教育実践研究の発展に資する有意義な時間であった.
(文責:今野貴之・大山牧子)
懇親会
大会1日目,03月19日(土)に懇親会が開催された.今回もZoomを活用したオンライン形式となった.まず初めにランダムブレイクアウトによる少人数の交流を行い,その後,トピック別のルームを作成し,参加者自身がテーマを選択して移動できるように設定し,それぞれの興味に応じて交流ができるようにした.
ランダムブレイクアウトでは,4名程度のグループになり,お互いの研究テーマや業務等についての交流が行われた.その後のテーマ別のセッションでは,「教育工学会のえらい人(自称)とつながりたい」「実践研究について話したい」「学生・院生部屋」などのテーマが設定され,それぞれの興味に応じたテーマごとに活発な交流が行われた.
少人数でのランダムブレイクアウトによって,交流関係を広め,テーマごとのブレイクアウトルームでより深い交流が促されており,どのテーマでも最後まで交流が深められていた.
(文責:泰山裕)