第32回日本教育工学会全国大会を迎えて
日本教育工学会 会長 山西潤一(富山大学)
2016年9月
第 32 回日本教育工学会全国大会を,大阪大学で開催できますことを,心からお喜び申し上げます.情報化・国際化が益々進む今日,1人一台タブレットの導入も進み,ユビキタスな学習環境のもと,教育や学習の道具としての情報通信技術の活用や授業研究,ビッグデータによる教授・学習支援,アクティブ・ラーニング等など,教授・学習支援や学習評価,教師教育などに関わる教育工学研究の出番が広まってきているように思います.会長就任以来,皆さんとともに立ち上げてきた,現代的教育課題を日常的に研究交流する SIG も活発にその活動を広げてきています.さらには,グローバル化時代に対応した国際連携強化では,AECT ( The Association for Educational Communications and Technology)を中心に,日本の教育工学研究を世界に発信する基盤づくりも進んでいます.
さて,このような状況の中,今年の 32 回大会は,教育工学研究の広がりを,より一層確実なものとする大会となるよう企画されました.拡大してきた SIG セッションも,より多くの皆さんに参加して頂けるよう時間帯を2つ設けさせていただきました.また,はじめて大会に参加する方々も増えてきている現状を鑑み,教育工学研究に興味関心をもつ方々のために,多用で柔軟な教育工学研究の内容や方法を紹介するチュートリアルセッションを新設しました.教育工学会の活動を知るいい機会ではないかと思いますので,ぜひ若い研究者の皆さんに足を運んでいただけたらと思います.大会2日目のシンポジウムでは,「ビッグデータ時代の学習支援・学習評価のあり方」をテーマに,初等教育から高等教育まで,さまざまに蓄積される教育データの分析と教授・学習支援,学習評価への活用可能性について議論されます.特に,ここでは,科学技術・学術政策として学術情報利用の基盤作りを推進されている西尾章治郎大阪大学総長をお招きし,社会における学術データ利用の方向性をお話ししていただきます.ビッグデータ時代に対応した新たな教育工学研究が見えてくることを期待したいと思います.
上記の他,179 件のポスター発表を含む 450 件を超える一般研究,国際化に対応した InternationalSession,それぞれに興味・関心のあるテーマについて,インフォーマルに語り合うワークショップなどが企画されています.毎回のワークショップでは,日々の教育実践をどのように研究としてまとめていくか,新しい情報技術をどのように教育改善に活かしていくかなどの萌芽的な研究について自由闊達に議論されています.新たな研究のアイデアを創出する場として活かしていただければと思います.また,昨年から,国際化対応として AECT の会長を招聘し,挨拶だけではなくセミナー形式の交流会も開催しています.今年は新しく会長になられた Kay Persichitte 教授に,米国における教育工学研究に関わるトピックについて紹介いただき,その後はラウンドテーブル形式のフリートークで相互理解を深める企画が準備されています.教育工学を支える関連企業の皆さんによる最新の教育システムやデジタル教材などの紹介をランチを囲んで行う,楽しいランチタイムセッションも従来通り企画されています.ここから新たな教育支援システムやコンテンツに関する共同研究が始まればとも思います.
学会は研究発表の場であると同時に,興味関心を同じくする研究者や実践者などの交流の場でも有ります.他者の意見や発表から研究をより深め,新たなアイデアを生み出す場です.日頃の研究の悩みを語り合う絶好の機会でもあります.
最後になりましたが,この大会開催に向け,多大な時間と労力をかけて企画・準備していただいた寺嶋浩介委員長を中心とする大会企画委員会の方々,開催校として会場の提供や運営に多大のご協力を頂いた前迫孝憲委員長をはじめとする大会実行委員会の方々,ご多忙にかかわらずシンポジウムでの講演を快くお引受け頂いた西尾章治郎大阪大学総長,協賛や展示で多大なご協力をいただいた企業の方々に厚く御礼申し上げます.今大会をとおして,参加者の皆さんの交流の輪が広がり,研究がいっそう発展することを祈念して,ご挨拶とさせていただきます.