教育イノベーションをリードする学会に

日本教育工学会 会長 山西潤一(富山大学)

2015年8月

 平成27年6月の総会において,2年間にわたる15期の総括と新たな16期に向けての方針をお認めいただきました.学会創立30周年を期に,学会の社会的プレゼンスを高めるとともに,国際化に向けて,海外の教育工学関連学会との連携を強化し,教育工学分野でグローバルに活躍する人材を育成するという方針で,この2年間取り組んできました.この方針は16期にも受け継ぎ,15期で不十分だった事項も16期には達成させるべく,役員が一丸となって,会員の皆様の協力のもと,学会活動の充実に努めたいと思います.

 学会も2800名を超える会員規模に増え,研究テーマも初等教育から高等教育,生涯教育におよび,先端的技術開発から日々の授業実践まで大変幅広くなってきました.このような状況の中で,年1回の全国大会や地域での研究会のみならず,テーマに応じた日常的研究活動を活性化する目的で,SIG(Special Interest Groups)を立ち上げました.高等教育・FD,教育の情報化,教育・学習支援システムの開発・実践など,現在11のテーマで活動が続けられています.全国大会での課題研究にかわり,このSIG活動が現代的教育課題解決につながることを期待したいと思います.

 また,教育工学研究はその創成期から国の教育政策に強く関わってきました.2000年以降,e-Japan戦略の中での教育の情報化,高等教育改革におけるFDの義務化,21世紀にふさわしい学びと学校の創造をめざす教育の情報化ビジョン,世界最高水準のIT社会の実現に向けた日本再興戦略,確かな学力を身に付けるための教育内容・方法の充実,良好で質の高い学びを実現する教育環境の整備などの第2期教育振興基本計画等など.どの施策においても教育工学研究が重要な役割を果たしてきています.なかでも,学会が毎年行ってきている大学教員のためのFD研修会は,修了者に学会としての認定書を授与することで,義務化された高等教育におけるFDの質向上に寄与してきています.また,教員養成大学に関わる教職大学院の設置が進む中で,授業力や研究能力のある実務家教員が求められ,その養成に向けた実践研究活性化セミナーなども企画して来ました.これら国の施策との関連事業でも,教育イノベーションを推進する役割を担い,学会の社会的プレゼンスを高めてきています.

 学会の国際化推進では,従来から交流のあった,中国教育技術協会や韓国教育工学会との連携を深めるとともに,新たに米国AECT(Association for Educational Communications and Technology)と学術交流の包括協定を結び,国際会議への参加や会員としての便宜を図り,特に若手の研究者のグローバル化人材としての活躍を期待したいと思います.このような国際連携強化と関連させて,30周年企画事業として,第30回全国大会では,「教育工学研究のグローバル連携を考える」というテーマのもとに,Stephen W.Harmon, AECT会長,Insook Lee,韓国教育工学会会長,董玉琦,中国教育技術協会常務理事の3氏を招聘し,それぞれの学会が行っている国際交流をより一層充実したものにし,アジアのみならず,米国,欧州までも含む,グローバル連携の可能性を議論しました.英文論文誌の充実や若手の人的交流のための助成など,多くの意見が出され,今後実現に向けて検討していきたいと思います.

 30周年企画事業として始めた,教育工学選書の発行も,教育工学に関わる総合的内容の1期に続き,より専門的内容に特化した2期の計画に着手し,教育工学研究を広く社会に啓発する事業としてその刊行を目指したいと思います.

 さらに,学会の社会的プレゼンスを高める活動として,学会誌の電子ジャーナル化や広報活動の一層の充実にも努めたいと思います.

 最後になりましたが,この6月から,学会事務局を,五反田から,一般社団法人教育情報化振興会(JAPET&CEC)がある虎ノ門に移転しました.日本教育工学協会(JAET)事務局も入っています.これら,教育工学関連の3つの組織の事務局が同じ場所にあることで,連携協力もしやすくなり,事務局体制の強化にもつなげ,より一層会員サービスの向上を図って行きたく思います.

 以上,16期では,継続的事業に加えて,新たな活動も充実させ,現代的教育課題解決に向けて,教育イノベーションを先導する学会として,その社会的プレゼンスを一層高めてまいりたいと思います.

 皆様のご理解,ご支援,ご協力をどうかよろしくお願い致します.