2013年を迎えて
日本教育工学会 会長 永野和男(聖心女子大学)
2013年2月
新しい年を皆様とともにむかえられたこと,お喜び申し上げたいと思います.
昨年度は,懸案の仕事として,教育工学選書の編集と出版が実施され,教育工学のトータルな姿を書物の形で示すことが出来ました.40年近くの歴史の歴史を振り返ってみると,教育の機械化や教育の効率化を求めていた固い時代から,研究対象や領域,そして方法論もずいぶん多様になり,柔らかい教育を受け止められる学問領域に育ってきたことが読み取れます.研究を礎としながら,具体的な問題解決を提言できる,それが教育工学の使命でしょう.
さて,今年はどのような年になりそうでしょうか.2013年度からは,高校でも新しい学習指導要領が実施され,これですべてのカリキュラムが切り替わります.基本的な理念は,前回と大きく変わっているわけではありませんが,マスコミなどでは,基礎基本の学力の低下が強調され,ゆとりをやめ,昔の学校スタイルに戻そうという声も聞かれます.学校に生徒を束縛し,教師が教える時間を増やせば,学力が向上するというわけではないので,本質的な問題を見誤らず,「学校を新しい時代を支える人材を育成できる体制に変えてほしい」と願っています.今,教育で話題になっていることといえば,いじめの問題や体罰という名の暴力であったりします.技術や競技に暴力による指導は効果がないとの結論は,どの実践者も述べていることですが,現実が変化しないのはなぜでしょう.教育の閉鎖的な体質が問題解決を阻んでいることも確かです.教育工学が教育の問題解決を求めるなら,根本的な解決に向かって,社会学的にあるいは組織論的な視点で,原因を解明し,問題解決の方法を提言することも求められるでしょう.
政権が代わって,これまで「失われた20年」を取り返す政策が声高に叫ばれ,そのせいか経済的に前向きになってきたという「話題」がマスコミをにぎわしています.確かにこの20年,我が国は,世界のトップレベルの発展の地位を無くし,自信を失い,国際的なリーダシップを果たせないできたきらいがあります.しかし,この20年,世界は大きく変化し,社会の構造や国際関係,人として生きていく価値観などが大きく変化していることも事実です.20年前の世界観で経済効果を高める対象として「人からコンクリートに」戻るというのは,新しい国の形をつくるチャンスを失うことになると懸念しているのは私だけでしょうか.
どんな時代になっても,もっとも重要なのは,「情報を収集し,自分でしっかり物事を考え,的確に判断し,社会のために問題解決し行動できる」人材を育成することでしょう.そのために時間と費用を惜しんではならないのが「教育」です.大変な時代だからこそ,グローバルな視点と具体的な問題解決を実践的に研究する教育工学者の努力が期待されているのだと思っています.