30周年の節目の年に

日本教育工学会 第7代会長 山西潤一(富山大学)

2014年4月

 すでにご案内のように,今年は学会創立30周年の記念すべき年であります.日本教育工学会は1984 年11月 01 日に会員365名で設立されました.ニューズレター創刊号での初代会長の東洋先生の教育工 学について述べておられる次の言葉が,教育工学研究を始めたばかりの私には大変印象に残っています. 「…文字が発明される前と後を比べて考えてみよう.それが教育とどうかかわっただろうか.確かに文 字は教育の仕事を助けた.…よりどころとなる書物があるということは,教師にとって大きな助けであ ったに違いない.けれどもそれはただ助けるだけにとどまらなかった.教え得ることがそれまでよりはずっと多量になった.何を学習しなければならないかということもそれにつれて変わった.まず文字自 体が重要な教育の内容となった.…とにかく沢山丸暗記しているということはそれほど重要でなくなり, そういう能力の教育可能性の中にしめる位置も変わった.つまり教育の仕方だけでなく,内容や前提をも変えずにはおかなかったのである」.

 当時はまだ ICT という言葉はありませんが,ここで,文字を ICT に置き換えてみれば,教育の情報 化での教育工学研究も同じような表現になります.教育の方法のみならず,教育の内容や求められる能 力の問題にも関わってくるのです.現在,会員数は 2800 名を超えました.会員数の増大で,教育工学 が対象とする研究の広がりを感じながらも,時代の変遷の中で教育工学が追い求めているものに何か共 通の大きな流れが見えてきます.

 さて,創立30周年記念行事として,今年の30 回全国大会と来年の記念シンポでの企画が進められて います.過去に学ぶとともに,未来の発展に向け,全国大会では「グローバル化時代における国際連携」 のテーマで,アジアはもとより欧米諸外国の教育工学関連学会との学術交流を強め,教育工学を担う皆 さんの活躍の場を広げる企画を考えてもらっています.また,会員の皆さんの興味関心に応じて,現代 的教育課題を持続的継続的に研究する場として,従来の課題研究を改めSIGを立ち上げていく事にもなりました.本ニューズレターや今後の大会案内でより具体の内容が示されると思いますのでご期待下さい.

 先達の築いてこられた教育工学を,30周年の節目を契機に,より一層の発展を期すよう学際的視野に 立った教育工学研究をすすめて行きたく思います.皆様のご支援,ご協力をよろしくお願い申し上げます.