教育工学研究の特性と今後の展開について

日本教育工学会 第5代会長 赤堀侃司

2007年2月5日

 2007年を迎えて,学会員の皆様も,ますます研究や教育にご活躍のことと思います.
今年も学会の発展のために,どうぞ,よろしくお願いします.本学会は,会員の皆様の努力で,研究内容も研究方法も,幅広くなってきました.

 このため,教育工学とはどのような研究をする分野だと問われることも多く,他分野の人に,どのように説明したらいいかわからないという声も聞かれました.
このため,明確な定義は難しいが,中期目標としての重点研究内容を設定して,これを昨年に公表しました.
関西大学の全体会議で,これを説明しましたが,その前に,教育工学の特性を改めて見直すことが必要だと感じ,私の考えを,以下述べます.

(1) 時代と共に,テーマが移っていく

 例えば,代表的な研究テーマを追ってみると,CAI/CMI,インターネットの教育利用,情報教育,eラーニングなどと移ってきました.
これに対して,教育工学は,メディアと道具の追求かという声も聞かれることもありますが,私は,この時代と共に移ることが,教育工学が発展する特性だと思います.

(2) 教育政策と連動して,移っている

 例えば,情報教育の推進,総合的な学習,メディア活用,eラーニングなど,確かに時代の教育政策と連動しています.
これに対して,何故だという声も聞かれますが,教育工学は,真理の探究というよりも,社会と共に動くという特性があると思います.

(3) 研究方法も,時代と共に移っていく

 例えば,実験計画,認知モデル,状況的学習など,どの研究方法も受け入れるという特性があります.
理工学のように,確立した方法はないのかという声も聞かれますが,むしろこれが教育工学の特性だと思います.

(4) 授業に関わるテーマを追求する

 例えば,授業研究,インストラクショナルデザイン,メディア研究,情報教育など,授業に関わるテーマは,一貫して追求してきたと思います.
これに対して,複雑な授業を解明できるのかという声も聞かれますが,授業は教育の本質なので,教育工学からのアプローチで追求していると考えられます.

(5) 教育実践を,重視する

 これは,教育工学らしい特質だと思いますが,実践から学ぶことが多いこと,現実の教育は複雑であること, 理論との橋渡しが必要という認識に基づいていると思います.
それでは,学校現場における研究との違いは何かという声もありますが,理論と実践との橋渡しに,意義があると思います.

(6) 道具を,持ち込む

 例えば,携帯電話,PDA,ipodなど,新しい道具の教育への可能性を評価する研究が,多く見られます.
これは,教育工学らしいテーマですが,教育の本質に関われるかという声も聞かれますが,私は,道具を通して,人との関わりを見ているので,教育を別の角度から分析しているのだと思います.

(7) 教育に,役立つ

 教育工学は,教育とは何かという理学よりも,どう役立つかという工学に近い発想をしていると思います.
改善すること,PDCAのサイクルで,役立つ研究をする特性を持っています.役立つ研究は,すぐに役立たなくなるという声も聞かれますが,例えば,医学の基礎と臨床のような関係で,現実の教育の改善を目指していると思います.

 以上のように,教育工学とは何か,他分野の人に,どう伝えればいいのか,という問いに私なりに応え,具体的な研究分野として,中期の重点研究の設定を行いました.
今後とも,教育工学研究の発展のために,どうぞ,よろしくお願いします.