【特集記事】「先端科学技術とELSI」について

稲葉 利江子(東京科学大学)

 2023年7月より2年間、日本教育工学会が重点に取り組む領域を社会に示し、学術的・社会的貢献を果たすことを目的とした「重点活動領域」において、先端科学技術の教育利用を倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal, and Social Issues: ELSI)の観点から検討することを目指し、「先端科学技術とELSI部会」の活動を進めてまいりました。副部会長の今井先生をはじめ、メンバーの先生方と協力しながら、各種の企画・調査を実施してきました。

 これまで教育工学分野では、新たに登場するテクノロジーをいかに教育に活用するかといった技術的側面に焦点が当たりがちでした。しかし、生成系AIをはじめとする近年の先端科学技術の教育利活用においては、技術的課題のみならず、倫理的・法的・社会的な側面を分野横断的に検討することが不可欠となっています。

 こうした認識のもと、全国大会では企画セッションを実施し、生成AIの教育利用に関する課題を模擬体験型のワークショップを通して議論したほか、責任ある教育実践・教育研究のあり方、教育データ活用における留意点などについて会員の皆さまと対話を重ねてまいりました。

 さらに、2023年度には生成AIの教育利用に関して、2024年度には教育データの利活用に関する調査も実施し、全国大会の企画セッションにて結果を報告いたしました。調査からは、ELSI課題に関する認知の向上が必要であること、教育データに関しては問題解決の目的と質を常に吟味し、どのようなデータが真に必要なのかを検討する重要性が示されました。

 これら2年間の活動内容につきましては、部会Webサイトにて公開しております。

 https://sites.google.com/view/jset-elsi

 ELSIや生成AIの授業活用に関するコラム、企画セッション報告なども掲載しておりますので、ぜひご覧ください。

  第2期の活動は終了となりますが、本部会を契機として、会員の皆さまが教育・研究の現場においてELSIの視点を持ち、ご活動いただければ幸いです。