SIG-ML 2022年度 第2回研究会『メディア・リテラシー育成に関するインターネットメディアの取り組みと、歴史的潮流』開催報告

前回のSIG-ML研究会では、「メディア・リテラシー育成に関する放送局の取り組み」をテーマにして研究交流を行いました。それに続く今回の研究会では、「メディア・リテラシー育成に関するインターネットメディアの取り組みと、歴史的潮流」をテーマにしました。インターネットが普及した現代社会において、プラットフォーム事業者の提供するサービスは大きな影響力を持っているといえます。そうした中で、プラットフォーム事業者においてもメディア・リテラシー育成に関する取り組みが行われてきました。教材の開発や教育プログラムの運営に取り組まれてきた講師をお招きして,実際に教育プログラムを一部体験しつつ,これまでの実践報告を伺い、これからの実践や研究のあり方を考えました。

●日時   2023年3月11日(土)13:00~15:30

●場所   オンライン開催

●参加者  48名

●プログラム

・開会・趣旨説明 宇治橋祐之(NHK放送文化研究所)

・模擬講座・実践報告1 宮本 聖二(元ヤフー株式会社 Yahoo!ニュース プロデュサー、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 特任教授)

・模擬講座・実践報告2 長澤 江美(スマートニュースメディア研究所 研究員、メディアリテラシー担当)

・日本のメディア・リテラシー教育の歴史的源流 森本洋介(弘前大学教育学部准教授)

・総合討論 今後の展開

 研究会では、まず、宮本聖二氏から、「プラットフォーマーによるディスインフォーメーション対策コンテンツとリテラシー向上の学び」についての報告が行われました。Yahoo!ニュースのプロデュサーであった立場で開発されてきた教育コンテンツの紹介とそれを活用した授業実践の紹介をしていただきました。誤情報・偽情報、フィルターバブル、アテンションエコノミー、犯罪報道におけるジェンダーバイアスなど、メディア環境の変化によって深刻化している問題について扱った事例を紹介していただきました。また、プラットフォーム事業者として取り組みが継続的に行われるために、体制づくり、効果検証、教材開発と効果の手法などが課題になると報告されました。

 次に、長澤江美氏から、「スマートニュース メディア研究所の実践」について報告が行われました。開発されたシミュレーション教材「To Share Not to Share」を活用した模擬講座が行われました。架空のSNSの記事を見て、記事を拡散するかどうか考えるシミュレーション教材で、シェアするかどうかの行動や、その根拠を見比べることで、他の人との考えや捉え方の違いを学ぶ内容でした。また、現在、教育委員会と共同で行っているメディア・リテラシー教育の効果測定プロジェクトや教員研修など、多様な取り組みを紹介していただきました。学校現場において「正解」を求める傾向があることや、教育を受けていない中高年向けにはどのようにアプローチすればよいかなど、今後の課題が挙げられました。

 最後に、本SIGコアメンバーの森本洋介会員から「日本のメディア・リテラシー教育の歴史的源流」について報告が行われました。日本のメディア・リテラシー教育がどのように取り組まれてきたか、歴史的な展開と世界を含めた現在の動向が整理されました。先の2件の報告に対しては、「ユーザー(オーディエンス)の力を育てることが情報発信者の力を育てることにつながる」ということや「多様なメディアやジャンルを対象にメディア・リテラシー教育を実践することが必要」であることについて確認がなされました。また、子どもをエンパワーメントする取り組みとしてメディア・リテラシー教育を捉えていることが、両発表者の共通点であるという説明がなされました。

 総合討論では,学校現場の教員、研究者、メディア関係者など、多様な立場からの質問や感想が出され、議論が行われました.メディア環境の変化に対して、これまでのメディア研究の知見をどのようにいかしていくか考えるよい機会となりました。

文責:中橋 雄(日本大学)